更新日:2008年6月10日 |
後期高齢者医療制度の役割
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後期高齢者医療制度が、政治を振り回している。
2年前に国会で決着したことではないかなどと言っても、通らない。国民の間では、まるで決着していなかったのである。
やはり、負担増を求めるということは、大変なことである。ぎりぎりの生活をしている人たちの思いを、絶対に忘れてはいけない。
介護保険を始めるときは、恐る恐るだった。消費税への反発を、忘れていなかったからである。しかし、介護保険料の負担については、予想外に多くの国民が了承した。介護の重荷を身に染みて知っている人が多かったからであろう。それに、保険者たる市区町村も、よく住民の間に入っていって説明した。
それに安心したのか、今回は安易だった。介護保険制度の改正の際のサービス減などの処置もかなり乱暴で、心配していたが、今度の医療制度改革で、国民の我慢は限度を超えて爆発した。
後期高齢者医療制度そのものは、現役世代の負担の過酷さを考えれば、これに優(まさ)る現実的な対応策を考えるのは難しいと思う。後期高齢者の保険料1割負担も、現役の負担を考えれば妥当であろう。問題は、その振り分けにある。
確かに高齢者の資産の平均は現役のそれより多いかもしれないが、格差が大きい。生活が厳しい人も多く、収入を得るすべはなく、将来の見込みは立てられない。公的保険は所得配分の性格も持つのだから、後期高齢者に特徴的なそれらの事情を考慮した上で、負担能力(収入、資産)に対応した、納得できるルールを立てる必要がある。この際、国民的合意が得られていない、個人単位と世帯単位との関係について議論をつくした上で、個人単位で統一して合理的な結果が得られるような一般的仕組みを構築すべきであろう。
今回のような問題は、高齢化の進展に応じて今後も発生し、しかも状況はますます厳しいものとなる。しかも、希望のある制度創設に伴う負担増でなく、いわば後ろ向きの措置である。その時、国民に説明して納得を得る作業は、主として市区町村が行うことになる。それをどのように適切に行うか。その試みを今回の制度説明から始めなければならない。 |
時事通信社「厚生福祉」2008年5月30日掲載 |
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