更新日:2009年7月15日
本末転倒の「政権」論議
総選挙の大きな争点になるのが、官僚を政治がどうコントロールするかである。
民主主義の基本が今にして問題になっているのであるが、よほど政策を固めてから実現しないと、危ない。
財務省に抑えられていやいやながら財政支出の節減をしている各省庁に政治家たちが幹部として乗り込み、ばらまき政策を押しつけたらどうなるか。国は破産への坂道をころげ落ちるだろう。
また、最近の厚生労働省元局長逮捕で注目された「政治案件」を、上からの命令によって処理させたらどうなるか。個別の行政案件について政治家が後援者や選挙区有力者の陳情を持ち込む件数は、善良な国民の想像を絶するほど多いのである。不当な要求を受け入れていては、国の根元が腐り、志ある官僚は去るであろう。
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まともな政策を示さず、官僚に対する人事権だけを強化し、その力で個々の政治家の言いなりになる官僚組織をつくるのは、国民にとって最悪のコースである。
あるべき手順は、まず各政党が、財源を含めて総合的視点に立った具体的政策を、マニフェストで国民に示し、選挙で国民の信認を得ることである。
そして政権を獲得したときは、政策の基本的方向とその具体化についてしっかり判断できる政治家を、各省庁に送り込む。
大臣はじめ幹部となった政治家は、幹部行政職員が行う「ご進講」(所管事項説明)を、これまでのようにウンウンと聞いているだけではよくない。まず政治家の方から基本的方向を示した上で説明を受け、これまでの方針で改めるべきものについては理由を述べて検討を命じる。それくらいのことは任命初日にやってほしい。そして、来年度の予算編成作業をしなければならない時期にきているから、複数年度にわたって実現すべき新しい政策についてもこれを具体的に示し、検討を急がせなければばらない。ただし、大臣または幹部に任命された政治家が個人プレーで政策を示すことは、避けなければならない。他の政策と矛盾が生じ、国民を混乱させるからである。
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民主党は、総選挙用のマニフェストで、財源を含めた政策を公表した。ダム建設など公共工事の廃止や見直しを具体的に示したほか、公務員の賃金カット、天下り先法人の廃止や補助金削減など、官僚やその背後にいる利害関係者が猛烈に反対する政策も掲げている。個々の内容についての賛否はともかく、明白に一部の票を減らす政策を示して国民の意思を問う態度は推奨できる。消費税増税や社会保険の拡大などの選択肢もあるので、各党は、口に苦い財政政策であっても、これを選挙後に延ばすといった詐欺的手法を捨て、正面から国民に示してその信認を得てほしい。国民は、先に光があれば、苦い薬をあわせのむであろう。
官僚は、自分たちの組織と権限を縮小する政策に対しては、手法を問わず抵抗するに違いない。それを突破する力の源は、ただひとつ、国民の支持である。
もし政党が国民のための政治を行うのであれば、一刻を争う。国の借金を増やさずに経済的弱者を支え、国民全体の意欲を引き出す政策を自らで考え、国民に示してその支持を得ることである。
(信濃毎日新聞「月曜評論」2009年7月6日掲載)
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