更新日:2012年1月18日
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「市場」が語る |
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初夢に「市場」が現れた。
「オレは、世界最強だよ。ギリシャを揺さぶって、EUをおたおたさせることもできる。オバマの人気を突き落としたのもオレ、中国を押し上げてるのもオレ」
ヤな奴だな。
「何言ってるんだ、オレが絞り上げるから、企業はぎりぎり競争してどんどん安い製品を出す。だから、みんなは良い製品をすごく安い値段で買えているじゃないか。昔の生活と比べてみろ、どれほど物がそろって豊かになったか。オレのお蔭だろう」
だけど、どの先進国も失業者や格差問題で困ってるじゃないか。
「しょうがないだろ、安くて良い物をつくるためだから。仕事をどんどん機械化して人件費を安くする。機械化を進めるということは、発明発見、文明が進むということだ」
文明の進歩はいいけど、肝心の人間が失業したり、安月給で結婚もできないんじゃ、人類は幸せになれないだろう。機械と人間とを同等に扱ってよいのか。
「同等だろう、コストという視点から見れば」
そこが君の冷たいところだよ。人間を幸せにするための機械だろう。人間への愛情はないのか。
「愛情!やっかいなものを持ち出すな。そんな甘っちょろいことを言っていたら、経営は成り立たんぞ。競争の世界は冷酷なものだ。効率の悪い人間にはそれなりの報酬を払うか、辞めてもらう。でないと市場に残れない仕組みだ」
本音が出てきたな。安く良い物をつくるのはよいことだが、その過程で、君の言う「効率の悪い人間」を振り落とすのは、そういう人への愛情がないからだろう。
「勘弁してくれ。それはオレの仕事じゃない。それは、政治と行政、それから非営利の事業の方でやってくれ。愛情だの慈悲の心だのを持つ経営者は、負けるのが市場のさだめなんだ」
ついに弱音を吐いたな。
「何を言う。だいたい政治は借金を増やして国民を甘やかすばかりじゃないか。弱者への愛情と言うが、助け合いの活動だって、まだまだ不十分だろう。そっちがしっかりしないで、オレを非難するのは筋違いだ」
平素は「民にまかせろ」とか「小さな政府」とか言って、本音は増税嫌いの君に言われたくないね。寄付だってあまりしてないし。
「競争に目を奪われて寄付が十分でないことは認める。これから頑張るから、こちらの立場もわかってくれ。増税嫌いは当たり前だ。少しでも利益を多くして株主に分けるのがこちらの役割なんだ。しかし何が何でも増税反対というわけではない」
少しは反省してるのか。
「ギリシャを見ていて、こわくなったんだよ。市場はこわい」
自分で自分をこわがってちゃしょうがないだろ。全部、君のせいだよ。
「仕事がないからって公務員をやたら増やしたりして、市場が認めるような儲けを上げず、楽をしている国が悪いんだよ」
だけど、厳しすぎるだろ。人間がわかってないから。
「それを言うなって。オレも自分に困ってるんだ。大恐慌になると、オレも終わりだからな」
終わってもいいじゃないか。余分な金の力で、為替とか金利とか株とかでギャンブルして儲けるようなしわざは、人類の進歩に逆行してるよ。
「言い分はわかった。オレに言わせれば、今どき国単位で政治をやってるから、オレに追いつかないんだ。オレはグローバルにすいすい動くからな。ま、当分オレをコントロールできないだろうから、日本も、借金倒れしないように頑張ってくれ。オレの血が騒いでることを忘れるな」
まったく、ヤな奴で、最後はまた居直って消えていった。 |
(電気新聞「ウェーブ」2012年1月11日掲載)
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