政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会

更新日:2012年8月8日

増税と政府とマスコミ
 昔からマスコミの役割は、民衆の側に立って権力の不当行使、特に政治のそれを批判し、正すことにあった。ところが今回の税と社会保障の一体改革問題では、多くのアンケートで増税反対が半数を超えているにもかかわらず、大新聞はこぞって増税賛成の立場をとっている。それは、大新聞がこの度の増税は、民衆にとって不当でないと考えているからであろう。
 とすれば、民衆の半数以上は不当な判断をしているということになる。そして大新聞は、半数以上の民衆を説得し切れていないということにもなる。
 民衆はおろかで、判断を誤るのは当然だという感覚のエリート主義者にとっては不思議でないのかもしれないが、私のように、民衆は正しい情報を与えれば正しい判断をすると信じている者にとっては、困った事態である。
 この問題のキーワードは「正しい情報」であって、これが提供されていないのではないか。
 先日もテレビで年配の女性が「私のような年金生活者には消費税が上がるのは困ります」と言っていた。正直な感想である。しかし彼女には、正しい情報が伝わっていない。
 「お気持ちはわかりますよ。でも消費税が上がらなければ、あなたの年金は、もっと減ることになりますよ」
 彼女が負担よりもはるかに大きい受益をしている現実を理解してもらう必要がある。そこから先は彼女の判断である。
 それでも、増税はいやというのか、あるいは若い人たちも苦労しながら消費税増税分を払うのに、自分は払いたくないというのか。私は、ほとんどの高齢者は、現状がわかれば自分も払うと言うと信じている。
 私は、政府の「社会保障改革集中検討会議」で、国民の立場に立って選択肢とそれぞれの理由を示して国民の意見を聞くように主張した。「民主党員は全員辻立ちをして国民に説明し、その意見を聞いてほしい」と言った。もちろん反応はなく、選択肢もわかりやすい説明も行われていない。マクロの数字を使って財務省と同じ説明をするだけである。増税派の学者の議論も同じ。
 そこで、マスコミの役割である。
 マスコミは、結果として政府の政策と同じ主張をするにしても、その原点は、あくまでそれが民衆(国民)の幸せにプラスであるということでなければならないだろう。
 つまり、国民の立場で考え、国民の立場でデータを集めて根拠を構成し、国民の言葉で主張と論拠を語らなければならない。そうとすると、政府や財務省、学者のようにマクロな数字を使って、国の財務政策としての主張や根拠を述べることにはならない筈である。
 目の前の生活しか考えられない人にも、生活者としてわかるように伝える。そういう態度を貫いていかないと、いつしか政府の政策に巻き込まれていくおそれがある。そういう態度を貫いていれば、同じ増税賛成であっても、軽減税率その他さまざまな条件の主張もありうるし、増税のプロセスについても、政府と異なる主張が出て来るのではなかろうか。
 高度経済成長時代には、政官財が結びついて政治も経済も引っ張ったから、マスコミは民衆の声を聞いて反対していればおおかたその役割を果たすことができた。しかし低成長、少子高齢化の時代には、国民に負担を求めることが多くなる。人は本能的に負担を嫌うから、その負担が国民にとってプラスであること、つまりその負担がなければ国民はもっと不幸になることを、年配の方にもこどもたちにもわかるように説明しなければならない。それを政府はしないし、かりにしても多くの国民が政府の説明を信じなくなっているから、マスコミの国民に対する責任は大きい。

(電気新聞「ウエーブ」 2012年8月2日掲載)

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