更新日:2012年6月27日
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復興の町づくり |
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津波で被災した自治体は、おおかた、昨年暮れから今年の初めにかけて、居住ゾーン、産業ゾーン、緑化ゾーンなどを決める復興基本計画を策定して議会を通している。引き続き、アンケートなどで被災住民の住居移転に関する意向を把握し、この春から移転計画の策定作業に入っている。
作業の早い自治体では、防災公営住宅の建設地が決まり、工事を発注しようかという段階に進んでいる。これからが町づくりの本番である。
いろいろな自治体の作業ぶりを見ていて心配なのは、無秩序な町になってしまうのではないかということである。
たしかに被災住民は、仮設での生活に音を上げはじめている。「1日を1年と感じて作業を急いでほしい」という行政への要望は、実感そのものである。
だから行政は、居住ゾーンで宅地の買収が済むと、さっそく防災公営集合住宅の建設に入ろうとする。そのこと自体はよいことであるが、そんなに日時はかからないのだから、その前に、町づくりのコンセプトとそれを実現するための概略図(建物、道路などの配置図)をつくっておいてほしいのである。
そういう図面ができている自治体は、私の知る限りないし、つくる作業をしている自治体すら少ない。多くの自治体が、この作業をすっとばして、いきなり建設作業に入る構えである。
もちろん、基本計画には復興する町の理念、目標、イメージなどは掲げられているが、これは「高齢者が安心して住める町」とか、「いきいきとした町」「美しい町」など、町づくりをするには、あまりに抽象的である。
私は昨年4月、樋口恵子さん、辻哲夫さんたち5人の仲間と「復興町づくり応援団」をつくり、「地域包括ケアの町」を復興のコンセプトとして被災自治体にお薦めする運動を展開してきている。地域包括ケアは、厚労省の介護などに関する政策として05年から推進してきているものだから、各地に、発展途上ながらもモデルはあり、そのもっとも進んだ形を、被災地各地に、その実情に応じて実現していこうというのが私たちの運動である。もちろん厚労省だけでなく政府の承認を得ており、かなりの被災自治体が、このコンセプトだけは取り入れてくれている。
ところが、そういうコンセプトを決めてくれた自治体ですら、いざ具体的町づくりという段階に入ると、これを忘れてしまう。
たしかに、防潮堤をどの高さにするか、盛土をどれだけの地域でどの高さにするか、産業と生活と災害時の避難を考え、道路をどこにどの幅、どの高さでつくるかなど、ハードの難問は山積している。居住ゾーンが決まっても、地権者との買収交渉、整地作業の計画、土地区画整理事業の実施から、ここへ移住する個々の被災者との条件折衝、旧所有地の買い上げ交渉など、一つ一つ難しい民事上、行政上の難関を切り拓いていかなければならない。慣れない応援職員を含め、被災地の行政職員は心身ともにくたくたで、ソフトのコンセプトを頭に置くゆとりがない。
そういう実情の中で、自治体の首長だけは「どんな町にするのか」という問題意識を持ってほしい。まったく新しい町をつくるのだから、どんな町にするかの責任は、今後100年以上、時の首長に対して問われることになる。
そして住民たちは、自分と子孫たちの問題として、この問題を考え、行政に声を上げて町づくりに参画してほしい。私たちは、その応援をしている。
なお一点、ハードの計画やその実施にかかわる方々は、「ハードはソフトの実現のためにある」という基本だけは忘れないでほしい。学者を含め、これを忘れている専門家が多いことに驚いている。 |
(電気新聞 ウエーブ 2012.6.18掲載)
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