政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会

更新日:2012年6月20日

人の絆 個人情報保護が障壁に
 地域のあたたかい人間関係が冷えていく。
 山梨は、日本でも特別にあたたかい県である。1988年から1年半、妻と共に甲府市に住んで、しみじみそう感じた。しかし、その頃できた私の友だちらは、「いやぁ、この頃はだいぶ変わってきましたよ。お葬式だって、昔のようにみんなで手伝ったりしなくなってますしね」という。残念なことである。
 ここ2、3年、日本のあちこちで「孤立死」が問題になっており、「地域の絆があれば、救えたのに」という声が上がる。そういう声を聞きながら、私は山梨県を思い出す。「山梨県なら大丈夫だろうな」と。
 地域のあたたかい人間関係を維持するのは、このお金万能の時代、簡単なことではない。
 だから私は、この20年間、「新しいふれあい社会をつくろう」と呼びかけて、助け合い、ふれあいの社会づくりに励んできたのだが、そうでなくても簡単ではないのに、こともあろうに、これを邪魔する法律がある。
 個人情報保護法である。
 たとえば、町内の自治会長さん。町内に引っ越してきたお方が、引き込もって出てこない。人と人との絆がまだしっかり残っている甲府市では、気になる存在である。しかし、訪ねてベルを押しても出てこない。ご近所に聞いても「どんな人かまったくわからない」という話。
 「ひょっとして孤立死の候補?」と心配して市役所に聞くが、氏素性を教えてもらえない。「個人情報を保護する義務があるから」というのが、その理由である。
 こういう現象は、個人情報保護法が施行された2005年以降、全国に起きている。個人情報保護法は、助け合いの敵、あたたかい人間社会の敵なのである。
 そのことは、地域で福祉の活動を行う人たちは、いろいろな機会に実感させられ、声もけっこう上げてきたのだが、一向に法律は改まらない。
 その弊害が、東日本大震災でも現れた。放射線による汚染を逃れて県外に避難した6万人を超える福島県人への支援活動である。故郷へ帰れるのか帰れないのか。帰れるとすればいつか。帰れないなら、どこに住むのか。不安がいっぱいである。将来を語り合い、希望を持つためにも、同郷の仲間が集って語り合う機会が必要だ。
 そこでNPOは、福島県外避難者の集いを開こうと、避難先の自治体や出身の自治体に、避難者の名簿をもらいに行くが、どっこい、教えてくれない。個人情報だから教えられない、という。個人情報(といっても、名前と住所だけ)と本人の生きる希望とどちらが大事だ、と詰め寄っても、「法令でダメとなってるから、ダメ」の一点張り。
 法令なんて人間がつくったものじゃないか。人間のつくった法令のせいで多くの人間が不幸になっていいのかと思うのだが、どうやら法令とか行政というものは、人の幸せよりも決められた通りにやることを大切にするものらしい。
 この冷たい法令を変えるには、多くの市民の声が必要である。何かいい方法がないかさがすと、山梨県個人情報保護条例の10条2項7号には、「山梨県個人情報保護審議会の意見を聴いた上で」、県が「こういう場合には個人情報を出せる」と決めれば、壁に穴を開けることができることになっている。
 現に岩手県は、この方法を使って、被災者支援のためには個人情報を提供できることと定めた。十分参考にできるであろう。

(山梨日日新聞 2012年6月3日(日)掲載)

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