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定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2010年 4月 9日

「いきがいの確保」を「ケア」と並ぶ柱にしよう

 介護保険制度は、介護や支援、介護予防サービスなどの「ケア」を提供する制度であるし、われわれの提供するいわゆるインフォーマルサービスも、お世話をするという面で、「ケア」に含まれる。
  ケア提供の最終の目標(理念)は「尊厳の確保」であり、そのために、個々人が必要とする多様なサービス(それは、人ごとに異なる)を、フォーマル、インフォーマルを問わず、ネットワークを組んで包括的に提供する仕組みにしたい。そのことを、私たちは主張し、実現に努めてきている。
  そういう運動をしながら、何か足りないものがあると、ずっと感じてきた。
  今回の介護保険制度の改正の動きにどう対応するか考えるうち、ハッと気付いたのが「いきがいの確保」という目標(柱)である。これを、個別ケアの包括的提供という目標(柱)と並ぶ二本柱として樹立する必要があるのではないか。
  たしかにこれまでも、ボランティアとしてサービスを提供するのはいきがいのためだと強調してきた。また、ケアを受ける人々も、その尊厳確保のためには残存能力を生かして人に役立ついきがいを持つことが必要だと説いてきた。
  しかし、そのことがケアの体系の中でどういう位置付けになるのかが、はっきりしていなかった。
  これをケアと並ぶもう一つの柱と体系づけることによって、いろいろなことがはっきりする。
  重度の要介護者や自立度の低い認知症の人々についても、その残存能力や意思能力を最大限に生かすことが、ケアをすることと同等に重要な目標となる。ケアをするヘルパーさんたちもそのことを十分に認識し、本人のできることについてはケアを控えると共に、本人がどんなことにいきがい、やりがいを感じるのかを、ケアをしつつ探ることに努める。そして、それぞれが「それぞれのしたいこと」をできるように補助するのが、ボランティアや家族などインフォーマルサービス提供者の役割であり、施設経営者やヘルパーさんらはこれに協力しなければならない。
  軽度のケア対象者については、「いきがいの確保」はより重要である。それは介護予防や重度化防止に大きな役割を果たす。自分の能力を生かし、人に認めらられることで、いかに人が自立していくかは、現場の人々が実感している経験知である。
  障がい者の就労がまさにそれに当たるが、それは高齢者も同じである。それがいきがいの効果を生むためには、就労の現場ははるかに多種多様でなければならない。もちろんボランティアなどの社会貢献も有用である。ボランティア活動は多様で、寝たきりの人でも「傾聴ボランティア」「パソコンボランティア」や「添い寝ボランティア」はできるし、立つことができない人も「留守番ボランティア」など、いろいろとできることがある。
  介護予防や地域支援事業に住民の乗りが悪いのは、それがケアを切り抜いてそれだけのサービスになっているからである。少しでも健康を維持してやりたいことをやろうという意欲を引き出さなければ、ケアだけでは高齢者はあまり出てこないだろう。楽な方がよいからである。
  いきがいは、インフォーマルサービスと企業など福祉以外の組織がつくり出す。そういうサービスとケアサービスを組み合わせれば、地域支援事業は幅広い、いきいきとしたものとなるし、介護予防や要支援までのケアサービスは、包摂して提供できるのではなかろうか。そして、サービス提供の中核となるのは、地域包括支援センターであろう。地方自治体は、これを各種サービスのネットワークセンター及び高齢者などの情報センターとして、充実する必要がある。
  そして、そういった包摂的なサービスの提供体制は、地域に応じて多様であるから、それら事業の設計、実施の責任は全面的に市区町村とし、そのために必要な資金は、細目を決めずに交付すると共に、自主財源を確保できる財政制度にしたい。
  そういう体制の中で、私たちのふれあい事業も、いっそうその効果を上げることができるであろう。

(『さぁ、言おう』2010年 4月号)

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 [日付は更新日]
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