政治・経済・社会
(財)さわやか福祉財団ホームページへ
 
定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2012年3月8日

釜石の復興 一歩一歩、前へ

「よくここまで釜石の住民の気持ちを引き出してくれましたね」と、釜石市長野田武則氏は、開口一番言ってくれた。
「ご提言にある町のセンターは、私たちが定めた復興基本計画と同じです。地域包括ケアもしっかり計画に定めました。ご提言は、これから計画を具体化する時に生かします」
 2月2日午前9時30分、釜石市長室。
 総務企画部長山崎秀樹さんら8名の幹部職員も、私たちが提出した提言書(後頁参照)に好意的だった。副市長の若崎正光さんが言った。
「私は『さぁ、言おう』の1月号に載っていた南三陸町への提言を読みましたがね。冒頭に『しっかり住民の声を聞いてくれ』とあったでしょ。ああいう提言だとどうしようと心配してましたよ」
 1月21日からの2泊3日、かみのやま温泉にお招きした釜石市の被災者からは、「行政が私たちの意見を聞いてくれない」という不満はあまり出なかった。これは、大船渡市の市民と並んで、むしろ例外的な現象だと言ってよい。
 そのように住民の声を聞こうという姿勢の首長は、私たちの提言を歓迎してくれる。住民からの不満が強く、提言をしっかりと受け止めてほしいと願う首長に限って、私たちの提言を煙たがる。
 だからこそ、提言活動を続けなければならないと覚悟を決めている。
           *      *       *
 釜石市の平田第5、6仮設には、昨年の9月から北海道ブロックのインストラクターの皆さんが、丸藤競さんのリーダーシップのもと、タッグを組んで入り続けてくれている。そのおかげで、今回のバスツアーには、目指すべき復興の姿を話し合いたいという目的意識を持った被災者の方々が参加してくれた。
 だから、地域ごとに分かれて行ったワークショップでの話し合いも中身が濃く、積極的な意見が次々と出た。
 その時の様子を撮った写真をお見せしたら、野田市長は、
「ほう、女性の方が多いですね」と言った。
 本音の話し合いの中から、新日鉄(新日本製鐵釜石製鐵所)との微妙な関係が浮かび上がってきた。釜石は、新日鉄の影響力もあって、その所在地より西側に経済の中心が移ってきている。しかし、浜沿いに住んできた被災者たちは、
「私たち、西側には行く気がしないの」と言う。だから、市役所など、行政機関は浜沿いの東部地区に置いてほしいと言う。
「私たち、新日鉄さんに依存するのはやめるべきよ」
「厳しくても頑張って自立しなきゃ」
「新日鉄のための釜石じゃなくて、釜石のための新日鉄」
「そう。でも、新日鉄さんとも仲良く、いっしょにいい町にしていきたいね」と、女性たち、前向きである。
 今の仮設暮らしについて話し合った時も、行政への要望よりも、「私たちは何ができるか」の話に熱がこもった。
「出かける時の車の助け合いをやろうよ」
「復興への提言も、私たちでもっとやっていきたいね」
 そして、アンケートに書いてくれた。
「毎日、仮設で引きこもり気味に過ごしておりました。気軽なつもりで来ましたが、堀田先生のお話を聞くうちに気持ちが熱くなってきて、とどまるところを忘れ、未来の町づくりの談話の盛り上がりに希望らしきものが見えるようでした。気分も癒やされ、夢と希望の持てた楽しいツアーを、ありがとう」
                *      *       *
 野田市長らとの会談の結果を報告したら、平田パーク商店会会長の阿部忠志さんは言った。
「これからは、もっと仲間を広げていきますよ」
 被災者たちの気持ちは、前を向きつつある。
 釜石市の行政は、住民の気持ちを受け止めて、前向きである。
 そして、平田第5仮設のサポート拠点を受託したジャパンケアサービスは、センター長上野孝子さん以下、24時間サービスや仮設外へのケア・食事等のサービスに、前向きに取り組んでいる。
 私たちも、北海道ブロックなどのインストラクターと組んで、地域包括ケアのインフォーマルサービスの創出に取り組める時を迎えつつある。
 力を合わせれば、光は見えてくる。みんなで、前を向いて、一歩一歩、進んでいきたい。
        
                                          2012年2月2日
釜石市長
  野田 武則 様

     住民からの提言

                                公益財団法人さわやか福祉財団
                                         理事長 堀田 力
                               ふれあいパレット さわやか北海道
                                  震災担当リーダー 丸藤 競

 1月21日から23日までかみのやま温泉に出かけたバス旅行(さわやか福祉財団・ふれあいパレット さわやか北海道主催)で、釜石市に住む住民有志31名は、釜石をどのようなまちに復興するかについて、釜石市復興まちづくり基本計画(以下、復興基本計画)を基に徹底的に話し合いました。その骨子は、次のとおりです。
 みんなが、真剣に、本音で議論してまとめた提言ですので、今後、復興をすすめるにあたり、ぜひご検討いただきますよう、お願い致します。

第1 復興についての提言
(釜石市の中心)
1. 釜石市の行政機能は、東部(中心部)地区を中心に復興してください。
(1) 釜石市の経済的な中心は、新日本製鐵釜石製鐵所(以下、新日鉄)より西側の中妻、小佐野、野田等の地区に移りつつあります。
(2) しかし、釜石市は、沿革からしても海(沿岸部)のまちであり、すべての中心部を海から離れた地域に持っていくことは、賛同できません。
(3) 市民としては、被災を機に、新日鉄のための釜石から、釜石のための新日鉄という姿にしていきたいとの思いを強く持っています。そのため市民が新日鉄への依存を脱し、自立への厳しい道を進むことも覚悟しています。
(4) もとより、釜石市と新日鉄とは協調し、ウインウイン(双方とも得)の関係で進んでいきたいと考えます。そのためにも、新日鉄は、釜石市の復興のため、いっそう土地を提供する等の協力をしてほしいと願っています。
(5) 以上に述べたような考え方で復興を図るならば、釜石市の行政機能の中心は、沿岸部の中心地域である東部(中心部)地区に置いてください。それにより、JR及び三陸鉄道の釜石駅の交通の要としての機能が維持されます。
(6) 東部地域の居住ゾーンは、おおむね復興基本計画のとおりで同意します。
(7) その際、東部(中心部)地区は、かつてのように通り沿いに長く伸びるのではなく、たとえば居住ゾーンの一区画を特定するなどして、多様な商店を集中し、来訪者に魅力ある繁華街を創ることを望みます。
(絆のある居住)
2.  居住ゾーンなどはおおむね市の計画どおりでよいと考えます。移転については、集落ごとにまとまって元の居住地の近くに居住できるようにしてください。
(コンパクト・シティ)
3.  各居住ゾーンには、コンビニなどの日用品販売所、郵便、理容・美容など、日常生活を営むのに必要な店舗等をそろえ、車がなくても日々の暮らしが営めるようにしてください。
(地域包括ケアの町−24時間巡回サービス)
4.  重いケアを必要とする状態になっても、最後まで自宅で暮らせるように、介護や医療、生活支援(食事など)のサービスが、必要な時自宅に届くようにしてください。
(地域包括ケアの町−福祉施設等)
5.  自宅で暮らすことが難しい場合でも、住み慣れた地域で暮らせるよう、それぞれの居住ゾーンに、なるべく自宅同様の暮らし方ができるグループホームその他の小規模な施設等をつくってください。
 その際、高齢者、障がい者、子どもなどのための施設を合わせて一つにしたものを考えてください。そうすれば、利用者のふれあい・助け合いが広がります。また、小さな集落でもそのような施設が持てます。
(地域包括ケアの町−ふれあい・助け合い・いきがい)
6.  ケアを必要とする人々を含めて、地域に住む人々がふれあい、助け合い、いきがいを持って暮らせるように、災害公営集合住宅には、誰もが集まれる部屋を設け、また、地域にも子どもと高齢者などが自然にふれあえる居場所を、建物の中にも外にも、数多く設けてください。市民も、その設置や運営を自ら行うよう努めます。
(生活応援センターの充実)
7.  生活応援センターは、地域で暮らすのに便利であるので、いっそうサービスを充実するように願います。
 同センターは、地域包括支援センターなどと連携し、情報を共有しながら、介護や生活支援などのサービスを、自宅や施設等に届ける拠点として活用したり、ふれあい、助け合い、いきがいなどの活動の中心として活用するなど、その役割を広げていってください。
(交通網)
8.  集落に住む者がさまざまな用向きで市の中心部その他の地域に出かけるのに便利なよう、オンデマンドバス等、交通に工夫をしてください。
  市民は、自分たちの車で助け合って出かけるよう、努力します。
(地区ごとの意見)
9. 地区ごとに出た意見で特徴のあるものを例示します。
  【釜石東部地域】
(1) 東部(中心部・浜町)地区: 市役所を置き、中心部に市営住宅ゾーンを置いて、共生の地域とし、スーパー、居場所などを置きたい。
 市営住宅は、居住ゾーンのうち浜に近い側に集合住宅を建てて、診療所や介護サービス拠点をその1階に設け、山に近い側は、戸建としてはどうか。
 そのさらに浜側のゾーンに、商店を集めたい。
(2) 嬉石・松原地区: 国道283号の山側に、共生型の居場所、グループホーム、こども園、デイサービス、ヘルパーステーションなどを併設する災害公営集合住宅がほしい。
 国道沿いに個人病院(訪問診療・看護拠点)やコンビニ等の商店街、防災センターなどがほしい。
(3) 中妻町・野田町地区: 学校の横の地域に、ふれあいの居場所などのある居住ゾーンをつくってほしい。
  【平田地域】 ワークショップ地区平田(別添)のとおり。
  【唐丹地域】 ワークショップ地区唐丹(別添)のとおり。
  *鵜住居地域は、参加者が少数のためまとめていない。
第2 現在の暮らしについての提言
1. 行政への提言・希望
(1) 仮設での生活について
 

・お風呂に追い炊き機能をつけてほしい(多数)。
・トイレの隙間を塞いでほしい。
・窓の位置が高いので、いざという時逃げられない。
・平田クリンセンターの大浴場に入りたいので、シャトルバスがほしい。
・仕事場を確保してほしい。
・一人暮らしでも二部屋は必要(多数)。
・街灯が少ないので作ってほしい。また、道路のでこぼこを改善してほしい。
・防災無線が聞こえにくいので改善してほしい。
・一般ゾーンの高齢者にも、緊急連絡装置を付けてほしい。
・部屋の防音を改善してほしい。
・資源ゴミの回収システムを使いやすくしてほしい。
・仮設店舗は、日曜も営業してほしい。
・集会所に、調理施設・簡易映画の見られるDVD装置を入れてほしい。
・仮設住宅内の駐車スペースを区切ってほしい。住居スペースにも車が入ってきている。

(2) まちのあり方について
  ・公共交通を充実して(増やして)ほしい。
・文化会館や子どものテーマパークをつくってほしい。
・魚市場を再開してほしい。
・船の操業ができるように船着場岸壁を完成させてほしい。
・道路の整備をしっかり進めてほしい。
(3) 復興への計画について
  ・もっと、まちづくりに住民の声を聞いてほしい。
・商店街を含めた都市計画案をつくってほしい。
・自宅を建てる際の、地域割をはっきり示してほしい。
・一周忌前に、犠牲者全員の名入りの慰霊碑を作成してほしい(候補地としては、大渡町‐お薬師公園 大平町‐共同墓地公園 等)。
2. 住民自らやりたいと考えているのは次のとおりですので、ご参考まで。
  ・仮設内で元の住まいの人達で集まって、情報を共有・把握するための話し合う会をつくりたい。そして、自分達で意見をまとめ、自治体に対し必要な提案をしていきたい。
・移動の便を向上させるため、住民同士がお互いに乗り合うような会をつくりたい。
・お茶っこの会を活用し、自分達が講師となり特技を活かしたカルチャースクール等をしたい。趣味での繋がりからコミュニケーションがとれるように。
・もっと仮設住宅の住民同士の交流を深められるよう、気軽に集まれる住民主体の場づくりをしたい。また、花見の会など自ら行動をおこして仲間をつくりたい。
・声かけ運動をしたい。挨拶から、安否確認やコミュニケーション不足の解消につなげたい。
・毎日、ラジオ体操をしたい。健康づくりや住民同士のコミュニケーションを促すため。
・お世話になった方々を招待して、郷土料理でもてなすなど交流会を催したい。
・自分達で耕せる畑があれば、つくりたい(仮設敷地内など近くにあれば)。

(『さぁ、言おう』2012年3月号)

バックナンバー   一覧へ
 [日付は更新日]
2012年 2月 9日 被災者の心に寄り添うということ
2012年 1月11日 これからの復興支援
2011年12月 9日 これから、第2の山へ
2011年11月 9日 着々と、展開している
2011年10月12日 これからの介護保険制度のあり方
  このページの先頭へ
堀田ドットネット サイトマップ トップページへ