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定期連載
更新日:2013年8月29日

社会保障改革の「宿題」

 旧自民党政権、民主党政権から現政権まで、事実上継続して検討されてきた社会保障改革に対する答えが、8月6日の社会保障制度改革国民会議の最終報告書で出た。この秋の国会から順次、その具体案が法律になっていく。
 提示された改革案は、負担の増加をなるべく抑えながら、よりよい制度にしようという姿勢で貫かれており、そのため、われわれ市民にも宿題が生まれている。
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 まず子育て支援の分野では、全世代参加による連続した支援という目標が打ち出された。報告書は述べていないが、これを成功させるためには、支援する人たちが「子育ては、自立に向けて子どもの能力を発達させること」という目的を共有することが必要であろう。
市町村はその目的を推進する認定こども園の早急な普及拡大に全力で取り組むべきであるし、市民は、ワーク・ライフ・バランスによる子育て分担と、地域で子ども同士が遊んだり交流したりする環境の整備に力を注ぐことが望まれる。
 医療と介護の分野は、在宅ケアの方向を打ち出すことにより、費用の節減を図りつつ、本人の希望にも沿う制度にしようとしている。在宅ケアを充実、拡大する方策として、すでに「地域包括ケア」という、医療・介護のサービスを包括的に自宅に届ける仕組みが考案され、実施されている。介護の分野では、それを市区町村が頑張って実現していけばよいのであるが、医療の分野では、体制転換の努力が必要で、そのため報告書は「病院完結型医療から地域完結型医療へ」という標語を唱えた。
 転換の決め手は、在宅医療を支える医療提供体制の整備(これは都道府県の責任)と、診療範囲が広く、専門病院への紹介も適切に行える総合診療医の養成配置(これは国と医師会の責任)であろう。市民は大病院へのかけ込みを止め、地域の医療とつながる責任を負うし、医師会には市民に地域医療の情報を提供する責任がある。
 介護の分野では、介護保険料の節減のため、要支援者に対するサービスを保険から外し、市町村のサービスに委ねることとされた。そうなればいずれ市町村税で費用がまかなわれるだろうから、市民としての負担は減らない。これを減らす方法は、そのサービスを市民のボランティアが分担することである。NPOや社協、生協、農協などが気持ちのこもったサービスを提供するため連携することが望まれる。
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 年金の分野では、将来的な負担の水準を固定する仕組みが出来ていることから、長期的な持続可能性は出来ているとされた。しかし少子化が進むにつれ、給付が厳しくなることは目に見えている。市民の理解を得て、納付を担う善良な外国人の移民を増やす措置が求められる。
 負担と給付の関係では、社会連帯の精神を強調して、高所得者により多い負担を求めている。それはやむを得ないことと考えるが、収入をしっかり把握されているサラリーマンが不当に不利になるおそれが残っている。
 マイナンバー制に始まる国民総背番号制の活用範囲を広げるとともに、消費税の記帳義務の範囲も広げて全売上を把握し、サラリーマンと自営業者らの所得把握の不均衡解消に努める必要がある。また、所得だけでなく資産も考慮した負担にするため、資産をしっかり把握する必要もある。政治が正面から取り組む時である。

(信濃毎日新聞「月曜評論」2013.8.26掲載)

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