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定期連載 辛口時評
更新日:2006年8月24日
非常識な米の「自衛権」
  レバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラがイスラエルに侵入し、兵士8人を殺し、2人を拉致した。それはまことにけしからぬ行為であるが、それに対して連日にわたりレバノン領域を攻撃し、多くの建物を破壊し、子どもを含む千人以上の人々を殺すのが「自衛権の行使」といえるだろうか。
  イラクが大量破壊兵器を持っているというので、軍を整えイラクに攻め入る行為は、自衛権の行使だろうか。
  アルカイダのグループに自国の建物を破壊され、約3千人に及ぶ死者を出した9.11事件に怒り、アフガニスタンに攻め入り、アルカイダ軍制圧のため、これと無関係な民をも殺す爆撃を繰り返すのは、自衛権の行使か。
  自衛権の定義は、国際法上一応固まっていて、急迫不正の侵害があること権利防衛のためのやむをえない行為であること(つまり、他に手段がないこと)防衛の程度を超えないこと(つまり、侵害を排除するため必要最小限度にとどまること)の3つが要件とされている。これは、個人の正当防衛の定義と同じであって、日本政府もこの見解を採り、国会で表明されている。
  これに照らせば、ヒズボラへの攻撃は拉致された2人を取り戻す範囲に限られるであろうし、イラクは不正の侵害をしていないし、9.11事件は、侵害行為が終了している。あとは、各種の外交手段を駆使して解決すべきであって、軍事行動に出るなら国連憲章に定める手順を踏まないと、「やむを得ない行為」という要件も満たさないであろう。
  ところが、自衛権の文言上の定義は同じでも、イスラエルの自衛権の解釈は文言を無視して広く、次いでアメリカも非常識に広い。恐ろしいのは、その非常識を正す者がいないことである。
  もちろん国際司法裁判所はあるが、アメリカの圧倒的な軍事力と経済力の前に、ここへ訴え出る国すらない。わずかにイラク戦争で、フランスとドイツが協力をしぶった程度である。
  これでは、他国をならず者国家などと呼ぶ資格はない。筆者の友人であるアメリカの法律家がイラク戦争の後「恥ずかしいことをした」と手紙をくれたが、アメリカ国民も戦争となると黙る風習があって、民主主義は歯止めにならないのである。
  自衛権はローマ法に始まってヨーロッパで広狭揺れながら、さきの三つの要件が固まってきたのであって、日本法は、フランス、ドイツの流れで正当防衛の規定を置いている。そして裁判所は、個人の防衛権について厳格に解し、喧嘩(けんか)の場合は、先に手を出した者に反撃しても、まず正当防衛を認めない。これに対し、銃による自衛が建国に先行したアメリカは、正当防衛の解釈が日本よりかなり緩やかである。その気質が、国際的紛争における自衛権の解釈にも反映している。
  そのような国の自衛権の行使(日本からすれば許されない戦争)に、集団的自衛権の名目で加担するのは、全国民に最大の不幸をもたらす行為であろう。
(神奈川新聞「辛口時評」2006年8月21日掲載)
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 [日付は更新日]
2006年8月24日 非常識な米の「自衛権
2006年7月4日 「共謀罪」の議論急げ
2006年5月9日 福祉損なう業界保護
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