更新日:2007年4月10日 |
非営利法人・公益法人に対する課税 |
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新しい非営利法人・公益法人制度が確定したのであるから、その税制について、改めて新制度に即して、基本からしっかり議論を詰めてほしいと思う。
これまでの税制に関する議論で奇妙なのは、何に課税するのかという税の基本問題について一貫した考えがないことである。
例えば、新非営利法人(一般社団法人・財団法人)の所得は原則課税で、ただ会費については非課税とされているが、これは正しいであろうか。
法人の所得に課税する根拠は、法人税法11条実質所得者課税の原則に表れているように、その法人がその収益を享受するからである。個人の所得に課税する根拠も同じである。
これは国民の納税義務を合理化できる、おそらく唯一の根拠であろう。公共のために自己の財産の一部を拠出するのは、その財産を自分が処分でき、その利益を享受できるからである。所得に課税する根拠はもちろんのこと、資産に課税するのも、消費に課税するのも、そこに処分して利益を享受する可能性又は享受そのものがあるからである。もちろん、法制度上、技術的な擬制はあるが、基本は、利益の享受に繋がるものでなければならない。その財産について処分可能性が皆無であり、何ら利益の享受ができないのに、その財産に関して税を取るとすれば、国民はその納税を納得できる筈はなく、これは近代の租税理論に反する悪税ということになろう。
このような基本的視点に立てば、個人の実質的所得(個人が収益を享受する所得)に課税されるのは、合理性があるし、営利法人の実質的所得も、終局的に株主等の利益を享受する可能性を有するのであるから、これに課税する合理性がある。
ところが、非営利法人は、会計処理上所得があっても、これを分配することを前提としていない法人である。これを分配するのであれば、分配可能性のある所得に課税するのは営利法人の場合と同じであるが、分配しないのであれば、課税するのは理に合わない。
原則課税にする根拠として、非営利法人は雑多であり、実質営利的なものも混入するし、分配も適宜行われる可能性があるなどといわれるが、これは根拠になっていない。実質営利目的で、収益を得て分配している場合はもちろんのこと、収益をフリンジ・ベネフィットなどの形で事実上法人の役職員に享受させている時には、原則に戻って課税すればよいのである。このような租税回避行為には、重加算税を併科して、抑制すればよい。その手間を惜しんで、非営利事業に投入する所得に対し、分配可能な所得と同じように課税するのは、明らかに行き過ぎで、国民の納税義務感に反する。筆者は、政府税制調査会の委員であった時、このことに関して、「アルカイダを攻撃するためにアフガン全土を爆撃してはならない」と発言したが、日本の政府が国民に対してそういうことをするのは絶対によくない。
非営利法人の所得で分配可能性のないものに課税するためのまともな法理論は、収益事業による所得について、営利法人とのイコールフッティング(競争条件の同一化)を理由とするものである。ただし、イコールフッティングを言うなら、期間中に非営利事業に投入した収益は、すべて経費と扱うべきである。また、形式的には収益事業であっても、実質的に営利事業と競争する関係にないものには、この法理は適用されず、課税すべきでない。例えば、金融資産の運用収入は、実質的に見てイコールフッティングの必要性は認められない。
原則課税の立場を取りつつ、会費だけを非課税にするのも、理屈がよく分からない。非営利法人の会費に課税するのがおかしいという感覚は、まともであるが、非営利事業に拠出される寄付金なども会費と同じ性質のもので、非課税が当然であろう。結局、原則課税というのが理論的におかしいから、国民の感覚に合わないことになるのであって、収益事業の所得のみ課税というのが王道であろう。
新公益法人(公益社団法人・公益財団法人)については、法人制度において分配が禁止されているのであるから、その所得が非課税であるのは、上述した基本的視点からして当然のことである。問題は、イコールフッティングを理由として収益事業による所得に課税するかである。これは、市場競争の公平という法益(営利事業の自由を確保するための基盤整備)と、公益事業の維持発展という法益(公共の利益)とのいずれを優先するかという政策判断の問題になる。
一般論としていえば、公共性の高いものが優越することになる。実際問題として、少なくとも、収益事業を公益事業として行う場合の事業所得については、非課税とすべきである。1つには、その所得は、公益事業に再投資されるものだからである。しかし、それより重要な理由は、実質的に営利事業との競合はなく、イコールフッティングの必要性がないということである。つまり、収益事業を公益事業として行う場合とは、受益者の自助自立を奨励するために可能な限度で負担を求めるものの、その程度の負担では営利事業は算入せず、かつその事業がその受益者の福祉や文化的生活上その必要度が高い場合である。そうでなければ、その事業を公益事業として行うインセンティブは生まれないし、公益事業と認める社会的意義もない。
欧米先進諸国の例に倣い、新公益法人の本来事業は非課税とするのが相当である。 |
(「月刊公益法人」Vol.38 /No.4 2007掲載) |
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