大震災の苛酷さに、胸の肉をえぐり取られる思いがした。
東北の復興なくしては日本中が幸せになれないと骨の髄から実感した。
多くのわが財団職員やインストラクターたちが、同じ思いを持ってくれた。
被災者支援活動が、財団の最優先事項となった。
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3月から4月いっぱいは、緊急支援を行った。
平素培ってきた財団と全国インストラクター間の熱い絆が、みごとに生かされた。
被災地に入った、東北ブロックのインストラクターを主とする仲間が、全国の仲間に、SOSを伝えた。どこで何が不足しているか、その情報は絆のネットワークに発信され、仲間たちが直ちに呼応し、あらゆる工夫をして必要な物を入手、直送した。財団もこのネットワークの核として、直接間接の支援をした。朝の辻立ちによる義援金募集も4月末まで連日行い、多くの善意をインストラクターに直送した。
被災した子どもたちを預かった仲間たちも、労を厭わず、今も受け入れて支援している。
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その間、やがて支援が生命維持期における緊急支援から、生活再建期における復興支援に移ることを見越し、3月には、町を復興する目標として、地域包括ケアの町を提案した。そして、そこに至るまでのプロセスとして、非公式な住民復興会議を住民主体で積み重ねることを提言した。
もちろん、地域包括ケアは、地域住民のいきがい・ふれあいをしっかり組み込んだ態勢によって実現するものであり、個々の住民復興会議は、避難所や仮設住宅など、地域におけるふれあいから自然に生まれるものである。
地域包括ケアという復興の目標は、4月中には、厚生労働大臣以下厚労省の関係部局、国土交通省住宅関係部局、復興構想会議、官邸における税と社会保障の一体改革(菅総理、野田、玄葉、仙谷氏ら与党幹部と有識者)等で共有され、法改正や予算措置も講ぜられた。
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肝心なのは、被災地の住民と自治体が、やる気になることである。
その働きかけをする前提として、基本政策立案者である国の意思を5月初旬までの間に固めることができたのは大きい。
それを推進するには、広い視野で見て同じ方向に進む民間の強力なリーダーと手を結ぶ必要がある。施設経営の立場から小川泰子さん、先進的自治体首長とネットを組む菅原弘子さん、いきがい、そしてケアタウン構想の辻哲夫さん、地域包括ケアの先駆的実践者、提唱者である小山剛さん、そしてご存知樋口恵子さんという超多忙な方々が、たちまち、志を持って地域包括ケアの町への復興応援団の発起人に加わってくれた。このネットは、これ以上ないアピール力を生み出す。各界の知恵者が、続々と私たちの応援団に加わってくださった。
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5月に入ると、避難所もある程度は緊急物資支援を必要とする状態から脱し、被災者の思いは、生活の再建、そして町の復興へと高められていく。
私たちは、5月から、被災地の自治体、避難所、仮設住宅などを回り、ふれあいの関係を創り、非公式な住民復興会議を重ね、地域包括ケアの町への復興という目標を共有することを働きかけた。
東北ブロックで支援活動を行ってきている荒川陽子さんや葛原美恵子さんらインストラクターが先導してくれた。
宮城県庁、そして、岩手県庁も、地域包括ケアを目標とすることに賛成。
登米市の布施孝尚市長
大船渡市の戸田公明市長
遠野市の本田敏秋市長
釜石市の野田武則市長
山元町の齋藤俊夫町長
石巻市の亀山紘市長
など、訪ねた首長は、深い理解を示され、関係幹部と認識を共有するとともに、今後とも協力し合いたいと好意的であった。
そして訪ねたどこの避難所のキー・パーソンたちも、直ちに目標に共鳴された。心躍る訪問の旅が続いた。
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6月から7月にかけ、インストラクターとの全国戦略会議を横浜で開くなどして、私たちは、復興支援の全国態勢を整えにかかった。財団とブロック(インストラクター)とは対等な協働関係であるから、自発的協力を待つことになる。
私たちは、いくつかのモデル市町を選び、そこで、ふれあいから住民復興会議、そして地域包括ケアへの働きかけを進めることにした。
モデルを定めたのは、
釜石市 …辻哲夫さんの東大グループの努力で、ふれあいと地域包括ケアの拠点となる仮 設住宅の建設が進むなど、先行している。北海道ブロック有志などと協働。
大船渡市…同様に先行している。北上市派遣の相談員との協力も見込める。南関東ブロッ ク、九州1ブロックなどの有志と協働。
大槌町 …再建が遅れている。サポート拠点を受託した社協と協力すべく、近畿ブロック有 志がふれあいなどの理念共有に努力中。
石巻市 …雄勝地区。石巻市の中では支援が薄い。関東ブロック有志などと協働。
南三陸町…佐藤敬子インストラクターが早くから入り、地元のリーダー小野寺寛さんを支え、 住民の力で復興を目指している。東海ブロック有志などと協働。
山元町 …渡邊典子インストラクターが早くから入り、地元のリーダー渡部孝雄さんを支え、 復興に向けた住民の話し合いも進んでいる。北関東ブロック、九州2ブロック有
志などと協働。
北茨城市…高松志津夫インストラクターが働きかけ、すでに被災者住民の任意的な会がで きている。北関東ブロック有志と協働。
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被災者同士のふれあい、絆を一挙に生み出し、強める有力な手段として、私たちは、被災者のバスツアーを催すことにし、8月、山元町の方々を鬼怒川温泉へ、北茨城の方々を伊香保温泉へそれぞれ2泊3日でご招待した。
もちろん日々のストレスを温泉で発散していただくためであるが、同時に、復興の姿を存分に語り合い、前向きに進んでいただくという目的がある。
どちらのバスツアーも、被災者たちから出た声をまとめ、山元町へは私から、北茨城では高松さんらが市長に直接面談して伝え、それぞれ積極的な回答を得ている。
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これからの動きと並行して、財団は、6月から、福島県からの県外避難者たちが情報過疎と孤立に陥らないよう、被災者同士の自主的な連携、ふれあいを働きかけている。また、福島のインストラクター小林悦子さんの呼びかけに応じ、高崎、島根などのインストラクターらが、子どもたちを受け入れるなどの支援活動を展開している。
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9月から11月まで、この3か月間が復興支援の第一の山場である。
被災者たちが仮設に入り、そこでの生活を築いていく。そこで、地域の絆を結び、広げ、深めて、いきがい、ふれあいのある地域包括ケアの町へと着実に前進する動きが、創り出せるかどうか。
財団は、しっかり、じっくり、取り組む。すでに、仙台に拠点もつくった。
どれだけ、みんなで力を合わせられるか。
東北が厳しい冬を迎え、車での移動が難しくなる前に、第一の山を乗り越えたい。
被災者たちの目の輝きをみんなで見たいのである。
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