更新日:2006年12月27日 |
わたしのおさぼりスポット 検事時代の息抜きルート
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攻めの仕事をしている時は、休息するゆとりもなく集中できる。しかし、待ちの仕事の時は、集中力の維持が難しいから、休息して心を思い切り開放するのが有効なように思う。
検事時代、捜査は攻めで、私の性分に合っていたが、公判(裁判への立会い)は守りの時間が長く、苦手であった。6年に及んだロッキード事件の裁判中も、弁護側の都合で待たされることが多く、心が鬱屈した。
そういう時は、仲間を誘って有楽町あたりに食事に出た。検察庁の隣は日比谷公園で、この公園を横切ると有楽町である。
公園の中、北寄りの道は緑に包まれ、少し迂回すれば、四季折々の花が色と香りを競う花壇もある。公園の中ほどの道を選ぶと、森林の中を抜ける感じで松本楼に出て、その先に噴水が踊るスペースが広がる。そのあたりに来る頃には、足取りもゆったりしてくる。気分が開放されるからである。
有楽町、銀座界隈には、けっこう安くてうまい店が点在していて、そのマップは、長い裁判の間に頭の中で自然に出来上がっている。時々の気分で、タイ、イタリア、韓国、中国、トルコ、ヴェトナムなど、各地の料理を楽しむ。
帰路、再び日比谷公園にかかると、笑い声が消えて、足取りが急に重くなる。待っている仕事が重いのである。日はすでにとっぷり暮れて、公園のベンチは、肩寄せ合ったカップルで満たされている。何だかみじめになってくる気分を引き締め直し、公園を通り抜けて検察庁に入る頃には、仲間も、「よしっ」という顔になっている。
カップルといえば、この公園、夜はカップルの天国となり、のぞきの天国ともなる。黒装束に身を固めたプロののぞきがうごめいていて、時々、都の条例違反で逮捕され、検察庁に送検されてくる。中には名高い大企業の重役さんなど、アッと驚く身分の人もいて、つくづく、へそから上と下は人格が別なのだと実感させられる。
話は読者に関係のない方向にそれてしまったが、人間、緊張のしっぱなしは続かない。ふっと息を抜くのが上手な人ほど、集中すべき時に集中して、成果をあげる人なのだと思っている。 |
((株)山海堂「東京おさぼりマップ」掲載/2006年12月15日発行) |
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