この本は、人間として自立していない人にはお薦めできない。自立心がなければ、親に要求こそすれ、感謝することはないからである。
またこの本は、親が人間として自立していない人にも、お薦めできない。自立していない親は、感情のままに子に接し、子に感謝されるようなことはしない。
検事として30年、福祉の現場で17年、どろどろとした親子の人間関係を見てきた。その結論をいえば、いい親子関係のキーワードは、自立。自立心があるからこそ、人を理解し、愛することができる。
この本には、新潟県ゆかりの56人が登場し、父母への思いを綴っている。ご本人たちはもちろん自立心豊かな方々であるが、そこに描き出された親たちも、みごとに自分の生き方を貫き、子どもたちに愛を注いでいる。だから、自然に「お父さん、お母さん、ありがとう」という言葉が綴られる。この思いが読者の胸を打つのは、その読者が、自立して自分の人生をかけがえのないものと思い、そういう自分に育ててくれた親に対して感謝しているからであろう。自分でも気づかないほど奥深くに潜んでいる親への思いが収録された手紙に共鳴し、心を揺さぶられた時、涙が流れるのである。
高校に入ると、「もう自分のことは自分でしなさい」といってお弁当を作ってくれなかった母。悔しくて、料理の本を買って自分で勉強し、芸能界で料理番組もやるようになった大桃美代子さん。
出版社経営という仕事一筋で家族との接触が少なかった父が、ある時高校生の娘の日記を読んで興奮し、「お前は将来作家になれ」と言った。「うん、きっとなるよ」と答え、そのとおり作家になった工藤美代子さん。
シドニー五輪で銀メダルを取った中村真衣さんは、その後の海外遠征でプレッシャーのため思った結果が出せなかった時、「ママだって遠く離れた外国で一人で苦しんでいる真衣ちゃんのことを思って泣きました」という手紙をもらった。その母の手紙で、彼女は引退から継続へと決意を改めている。
生後8ヵ月から育ててくれた祖母は、19で嫁ぐ時「これからは、もうこっちのことは忘れて・・・」と諭したという河田珪子さん。
本書には、精神的に自立している親と子だけに与えられる、至福の愛と感謝の熱い心が詰まっている。
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