最善の子育て環境
動物は、すべて、子孫を残すための優れたノウハウを持っている。そうでないと、生き残ることはできない。生き残るために子育てをすることを選んだ動物は、その動物にとって最善の子育てをしている。
人間は、一人の女性が生涯におよそ一〇人の子を産み、家族が協力して子育てをし、群れをつくって助け合って生きるという方式を選んだ。これが人間にとって最善の生き方、育て方であったから、人類は、動物の頂点に立って繁栄している。
しかし、自らの知恵で生存率を格段に高めた人類は、自らの意思で出生率を下げた。それは好ましいことだが、子育てにおいて重要な役割を果たしてきた平均一〇人の兄弟姉妹という環境も、大人や子どもたちが群れとして子育てにかかわるという環境も、失われた。
その結果、子育てにかかわるのは、親(日本の場合、圧倒的に母親)と先生という、限定された大人となった。大人が管理するために、子どもは、群れの中でもまれながら自ら育つ力を身に付けることができず、幼くなり、ゆがむという事態を招来している。
子どもの自ら育つ力を最大限に発揮させるための環境をどう再構築するかが、今、問われている最大かつ喫緊の課題であると考える。
仲間との交流
兄弟姉妹間のお守りや助け合い、けんかや仲直り、共遊びなどを通じて、生きる意欲やさまざまな人間性、社会性や感性を身に付けていった環境を、どのように再生するか。
一つには保育園や幼稚園に、兄弟姉妹関係類似の環境をつくり出すという手法があるが、決め手は地域にあるであろう。
年齢の違う子どもたちが寄り集まって、子どもたちだけで群れ遊ぶ場をつくり出す。つくるのは地域の大人であるが、身体の危険を防ぐため以外には、割り込まない。たとえ自分の子が泣いていても。かつては、そうしていたし、だから子どもは育ったのだから。
そういう場をつくろうとするNPOが出てきつつあるし、学童保育や地域子ども教室、児童館などがそういう場になる気配も見えるが、まだ管理したがる傾向が強い。
地域の大人との交流
子どもたちは、親や地域の大人たちの生き方、働き方、交わり方を見て、まねることにより自ら育っていく。職住隔離と核家族化によりその機会を奪った大人たちは、どのようにその機会を再生すればよいか。
子どもたちの職場体験は有効だし、高齢者とのふれあいも、子どもたちの人間性を大きく豊かに伸ばす、めざましい効果がある。
それらの機会は、徐々につくられてきたが、今、決定的に足りないのは、大人と子どもが協力し合って、一つの目的に挑む機会である。昔のような家計維持のための協力は農業の分野でもほとんど消えてしまったが、地域の祭りでも、文化の継承でも、助け合いでも、公園づくりでも、スポーツでも何(なん)でもよい。大人たちが全力で取り組む姿と能力を示し、それをまねて子どもたちががんばる。そういうプロジェクトが各地で展開されれば、地域の教育力は大きく伸びるであろう。
地域の大人たちへのメッセージを「子どもは未来を求めている」と題して詩に託した。
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子どもたちは 未来を求めている
子どもたちは 希望にあふれている
子どもたちは 愛を求めている
子どもたちは いっぱい知りたがっている
そして
子どもたちは 役に立ちたがっている
それが 子どもの 育つ力
私たちは 子どもたちが 自分たちの力で
思いっきり育っていくのを 手伝おう
邪魔をしないで 歪めないで
彼らが 自分で考え 自分で感じ
いろんな人と交わりながら
学んでいくのを手伝おう
私たちの未来のために
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