政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2006年6月21日

新公益法人制度の運用

 新公益法人制度が、とにもかくにも発足できるところまできた。民間活力を生かすという視点から、これまでいろいろと注文を付けてきたが、本稿では、新制度が信頼を得て社会的役割を適切に果たせるかという視点から、所感を述べる。
  第1は、一般非営利財団の新設についてである。
  公益性のない一般非営利財団の創設を求めるまともな要望はなかったのに、この類型を創設することにしたのは、一般非営利法人制度と公益法人制度を二階建てにしたことの論理的帰結である。そして、二階建てに対し、実務に携わる私たちがしきりに反対したのに、これを強行したのは、立法作業に従事した学者たちの観念論からである。その観念論は、実務上の便益に基づくものでもなく、といって法理論上必然の論理に基づくものでもない。
  いってみれば論理の遊びからこんな類型を創ったと言えるのだが、この類型は、相続税回避の温床になる。認可がきわめて厳しい現行の公益財団法人ですら、相続税対策にこれを使う者がいる。これが準則設立主義になればどうなるか、目に見えている。
  そのために、拠出される財産に課税されることになっては(まさかと思うが)、その財団が公益法人に移行する際に甚だ不都合である。また、「財団」に対する一般的信頼が失われるのも困る。
  立法関係者は、どう責任を取るだろうか。
  第2は、公益認定等委員会委員の人選についてである。
  今回の改正で、主務官庁制を排し、認定のための第三者委員会を設けたのは大きな進歩であるが、この委員は、大変だと思う。
  役所が天下り先の確保と権限拡大のため設けようとする公益法人は、断固排除しなければならないが、そこは頭もよく手慣れてもいる役人だから、実際は要らない団体を、いかにも国民のため必要な公益団体のように装って申請してくる。骨の髄まで善意だが手慣れていない民間人の申請に比べ、書類も説明も完璧で、欠点を看破するのは極めて難しい。
  私は、そういう面の能力も極めて高い、論戦を生業(なりわい)とするような人物が委員に必要だと考えている。ただし、市民の立場に徹した人物でなければならないから、行政官OBや、元裁判官、元検事などは避ける必要がある。官の事情に通じない頑固者がよい。
  もっとも、官製公益法人に対するのと同じ厳しい態度で、民間公益法人に臨んでもらっては困る。営利目的を偽装したインチキ申請ははねつけなければならないが、それは役人の偽装を看破するよりずっと簡単であろう。やってはならないのは、不慣れなため書類の作成も説明も下手な本物を、見掛けだけでニセ物と誤解して締め出すことである。
  真相を過たず把握して、悪に強く善にやさしい、40代前後で働き盛りの委員を人選してほしい。そして、しっかりした民間人の事務局を相当数つける必要がある。認定業務から解放された省庁の人員は相当数削除できるから、その分を充てればよい。
  第3は、公益目的事業の比率についてである。
  公益法人認定法(以下「法」という。)は、公益法人に対し、公益目的事業の比率が50パーセント以上であることを求めている(15条)。
  もっともなようであるが、この考え方は正しくない。公益目的事業と全く別に、利益を享受するため収益事業が行われるのであれば半分以上が公益事業でなければならないが、この収益事業は、その利益を公益事業に注ぎ込み、それによって公益事業を維持、発展させるために行われるのである。
  となれば、その収益事業に課税すれば足りるのであって、その比率を50パーセント以下に抑える合理性はない。法文を変えるのは当面難しいとしても、内閣府令で算定方式を定める際には、可能な限り、合理性があり実態にも即したものにする必要がある。
  その視点から50パーセントの算定方式を見ると、分子が「公益目的事業費」で、分母は「公益目的事業費+収益事業費+一般管理費」とされている。この公益目的事業にボランティア活動の市場費換算額を算入する旨を内閣府が表明しているのは、きわめて適切であるが、問題は一般管理費である。これも事業遂行のための経費(間接経費)なのであるから、可能な限り、公益目的事業と収益事業に按分して、それぞれの事業費として計上できるよう、内閣府令を定める必要がある。
  これに関連して、法18条は、寄付された財産等を原則として公益目的事業に使うべき旨を定めているが、公益法人がもっとも苦労しているのは一般管理費の調達であって、これに使えるよう内閣府令を定めてほしい。
  第4は、内部留保の制限についてである。
  法16条は、「遊休財産」という概念を創設したうえで、ある事業年度に行った公益目的事業の費用とほぼ同程度の遊休財産額しか保有できないと定めているように読める。しかしながら、この条文は極めて出来が悪く、厳格に読めば、翌年度に繰り越す剰余金は、概ねその年度の公益事業費程度でなければならないとも読めるし(これでは公益事業は発展どころか継続も危うくなる)、広く読めば、剰余金は、これを預金してその利子を公益事業に充てることとしておけば、遊休財産にはならないとも読める。内閣府令によって、後者の趣旨であることを明らかにするのが、法の目的に適うと考える。

(「月刊公益法人」Vol.37 /No.6 2006掲載)

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 [日付は更新日]
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2006年6月1日 「社会保険庁の不祥事と責任」
2006年5月11日 市民後見NPOをつくろう
2006年2月16日 公益法人税制改革の問題点とあり方
2006年1月17日 「公益法人制度改革」への意見書を提出しました。
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