更新日:2007年5月21日
国民投票法 正すべきは正さねば
一緒に論じられぬ「九条」
多くの疑問が解明されないまま、国民投票法が成立した。われわれは、どうすればよいか。凍結期間の3年間、国民の間で冷静に議論をして、正すべきは正さなければならない。
一つは、最低投票率である。憲法九条を改めたい安倍政権は、改正のハードルを下げるため、最低投票率を設けなかった。しかし、九条の改正は、現在及び未来の日本国民の生命そのものにかかわる重大事である。少なくとも投票権者の半数以上とすべきではなかろうか。老若男女、多数の国民の議論参加を得て、付帯決議どおり、しっかり詰めてほしい。
それより大きな問題は、公務員や教育者の地位利用による運動の規制である。これは労働組合による反対運動を嫌ったもののようであるが、あまりに政治的な発想である。
ことは、どの候補者を当選させるかというレベルの投票ではなく、現在及び未来の国民の生き方の形を決める投票である。あらゆる場で、少しでも多く情報が提供され、意見の陳述や交換が行われることが望まれる。ところが、本法の規制はその内容があいまいなため、憲法についての授業や議論を萎縮させるおそれがきわめて強い。早急に見直すべきである。
さて、本法の規定のうち憲法審査会の部分は次の国会から施行され、さっそく憲法改正論議が始まる。注意が必要なのは、九条問題と、それ以外の改正問題とを混同しないことである。
施行60年、憲法は人類普遍の原理に基づき国の形を定め、国民の権利と生活を守ってきた。しかし、社会の進歩に応じ、いくつか補正した方が望ましい事項が出てきている。たとえば環境権やプライバシーの保護などを追加し、共助の仕組みを取り入れ、地方自治体の権限を独立のものとするなどである。そういう改正を望む人たちを含めると、改憲派は国民の多数を占める。
しかしながら、安倍総理が問う改憲の争点は、九条問題である。この問題になると、国民の多くは、現状維持に傾く。
九条問題は、他の問題と異なり、憲法の基本原則に係わるものであり、また国民の生命にかかわるきわめて深刻な問題であって、国民の意見も激しく分裂している。これを他の問題と同じプロセスで扱うことは、議論を誤導する。憲法審査会は、議題を完全に分別して審議すべきである。
そこで、その九条問題の議論であるが、危険なのは、国会議員が国民の意向を正しく反映していない現状にあることである。各種の世論調査を見ても、九条改正反対が国民の多数派であるのに、自民党議員は改正でまとめられており、民主党にも改正派が少なくない。そういう状況の中で、「自衛隊を実態に沿って軍と認めるか」「固有の権利である集団的自衛権を認めるか」という問題提起をすると、答えは形式論でイエスに引きずられやすい。
しかし、問題の本質は形式論にあるのではなく、「現在の世界情勢の下、いかに平和を確保するか。そのために日本はどうすべきか」という実質論にある。選択肢は、@アメリカと軍事的にも協調するかA国連軍に参加するかB現行の武力不保持・不行使路線を貫くか、であろう。真正面から国民の熟慮と判断を求めるべきである。
(信濃毎日新聞 2007年5月15日掲載)
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