更新日:2007年9月4日 |
労働法制と非正規雇用
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雇用関係が乱れている。
雇用・労働の規制は、いわゆる正社員を前提としている。しかし、雇用者は、規制を免れるため、正社員以外の労働者を求める。
その理由は、報酬額や保険料負担もあるが、大きなものは、解雇の制限であろう。
日本が護送船団方式で高度成長し、各企業が右肩上がりで発展していた時は、解雇制限は、さして障害にはならなかった。しかし、メガコンペティション時代に入ると、雇用の維持は、経営の大きな足かせになる。いつ、何が起きるかわからない航路を進む船は、定期航路の船と違って、身軽でなければ事態に即応できないのである。
一方、働く側にも、かなりの変化が出てきた。終身雇用と定期昇給を就職の絶対的条件とする層は、圧倒的多数ではなくなりつつある。かつて高度成長時代にあっても、女性や小さなサービス業などに職を求める労働者には、終身雇用を絶対的条件としない(できない)人たちが少なくなかった。
それが、今は、青年層の間にもそういう人たちが現れ、七・五・三現象といわれるように、せっかく大企業に正社員として雇用されながら、「自分に合わない」などという理由で退職する社会現象が起きている。そういう人たちは、解雇制限より転職の自由を望むのである。
解雇制限は、労働者保護のため判例が法文を越えて積み上げてきたものである。
その関連で私が思い出すのは、借地借家法の解約制限に関する判例である。この法律は明文で正当事由を定めていたが、それにしても判例による「正当事由」の解釈は厳格で、よほどのことがない限り、貸主は契約を解除できないようになっている。それは、高度成長を遂げ終えるまでの賃貸不動産不足時代には、きわめて正しい解釈で、その解釈が果たした社会的意義は大きい。しかし、供給物件がそこそこ出そろい、あわせて一億総中流といわれたように、国民の経済力がある程度のレベルになると、かつては正義の顕現であった厳格な解釈が、社会の発展に合わなくなり、借りる方も自由な契約による賃貸市場の拡大を望む人が多くなった。とはいえ、積み上げられ、踏み固められた判例は、容易には変えられないし、これを必要とする層も存在する。
そこで起きたのが、無法な立ち退き強制である。社会は、暴力によって都市再開発のニーズを満たしたのである。法務省はあわてて定期借地権という法的手段を設けたのであるが、抜本的対策ではない。
正社員以外の雇用の蔓延、特に、その中で起きている偽装請負などの違法行為は、労働法制と進展した社会情勢とのギャップが生み出したものであろう。私は、かなり前から、労働法制の基本理念の現代化を検討する段階に入っていると思う。
厚生労働省が平成16年6月に出した報告書『転換期の社会と働く者の生活〜「人間開花社会」の実現に向けて〜』を具体化していく作業を早く始めないと、労働関係も、不動産賃貸借関係の法令棚上げ状態を再現しかねないと憂いている。 |
(「労働判例」No.937 2007.8/1.5掲載) |
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