1.みんなが幸せになれる町
被災地をまわってみると、被災者たちの多くは、厳しい状況の中で、前向きである。この生きるエネルギー(自助の力)と、東北に顕著な助け合いの心(共助の力)があれば、日本全国がうらやむような町に復興することは確実だと言い切りたいほどの気持ちになる。
雇用は、自助の中核であるから、その実現は、みんなが幸せになれる町への復興の大きな柱となる。
しかし、雇用政策が、従来の日本の経済成長至上主義に立ったものであっては、みんなが幸せになれる町への復興にむしろ有害となるであろう。原発に頼る町の悲惨な結末は、世界の注目の中で露わになった。大企業の誘致も、決して反対はしないが、それが町の人々の自立心を失わせるものであれば、やがて人々に不幸をもたらすこととなるであろう。
雇用政策は、町のすべての人々を幸せにするものでなければならない。
2.助け合いや絆が生み出す幸せ
子どもや高齢者、障がい者が、元気に働く人々と同じように幸せに暮らせる町を創るには、すべての人がその能力をその地域社会で存分に発揮し、いきいきと暮らせる町にすることが肝要である。
それには、子育ち支援に人手やある程度のお金を投資すると共に、高齢者や障がい者が、営利、非営利を問わず、それぞれの能力を発揮する場をみんなが意図して創り出す必要がある。営利事業にも高齢者や障がい者がやれる事務や作業はあるし、公共部門にはなおさらである。
それらは、従来の経済成長の視点からいえば、大した効果をもたらすものではないかも知れないが、みんなの幸せの視点からすれば、その成果は最大といってよい。本人だけでなく、周辺の人々、つまり、みんなが、幸せで前向きな気持ちになれるからである。
被災地に限らず、日本、いや世界の先進諸国が、これから目指していく社会である。
3.介護や医療が生み出す雇用
日本の介護や医療は、今、大きな転換期にある。介護が目指すのは地域包括ケアと、その典型的な形であるいわゆる24時間巡回サービスであり、医療が目指すのは、総合医が大きな役割を果たす地域医療である。これらの目標は、税と社会保障の一体改革の理念としても、認められつつある。
介護と医療が共に抱く理念は「人の尊厳」である。すべての人が、身体が不自由となっても病いを得ても、最後までその人らしく、尊厳を持って暮らすには、可能な限り、自宅で暮らすことが大切である。自宅は、病院や施設と異なり、したいことができ、自分らしく、つまり、幸せに生きることができる場所だからである。地域包括ケアも地域医療も、そういう暮らしを支えるためのものである。
となれば、復興に当たっては、日本全国にさきがけて、これらの実現を目指すのが幸せな町を創る方策となる。
介護でいえば、かつて施設にいた高齢者も、バリアフリーの高齢者住宅を、たとえば平屋として建設し、そこに入っていただく。そして、町の中心部に訪問介護や訪問看護、食事サービスなどの拠点をつくり、そこから、必要な高齢者のお宅にサービスを届ければよい。24時間巡回サービスの実現である。
そして、この仕組みは、仮設住宅の段階で実現できる。厚労省は、サポート拠点という呼び方でその実現に動き始めた。これを復興へそのままつなげていけばよいのである。
この仕組みは、大きな施設の建設を不要にする点で財政負担を減らす一方、ある程度の人手を必要とする点で雇用を増やす。
震災で職を失った人たちを、相当数この分野のサービスに導入すればよい。オンザジョブトレーニングで技術を身に付け、やがては復活する本来の産業に戻る人と、介護の分野に残る人の両方の道があってよいであろう。
4.さまざまな雇用を生むことができる
津波で崩壊した沿岸部の自治体と、その内陸部の自治体が協力すれば、山の幸と海の幸がそろう魅力ある観光地が生まれるだろう。津波が壊した地域に住宅を建てない方針の市や町が出ているが、壊した地域に、漁場のほか、さまざまな公園などを建設すれば、いっそう魅力が増すであろう。
復興は、最大の不幸から最大の幸せを生み出すものであってほしい。そのためには、住民が、存分に夢を語り合い、共に力を合わせることが不可欠である。
その中から、その地にふさわしい雇用も生まれるに違いない。
|