更新日:2012年9月13日
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お地蔵さんの絆 |
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誰が置いたお地蔵さんなのか、仮設住宅の人たちは知らない。しかし、やさしいお顔でひとり立っておられるお地蔵さんに、心引かれ、自然に手を合わせるようになる。一円玉や十円玉が供えられ、頭には手編みの赤い帽子が、肩には華やかな布を縫い合わせた帷子が掛けられる。
不思議なお地蔵さんは、岩手県大槌町の48の仮設すべてに1体ずつ立てられている。
去る8月29日、これを立てた人がみんなの前に姿を現した。町づくりのNPO法人ぐるっとおおつちを主催する小向幹雄さん、77歳である。
どうしてお地蔵さん?との問いに、小向さんの説明、「一つは、鎮魂です」。
仮設に住む方々のほとんどは、家族や親しい人を津波で失っている。行方がまだわからない人もいる。そして、自分が助かったことで自分を責める気持ちを拭い切れない人も多い。
鎮魂は、生きる人のどうしようもない思いの発露である。
「だけど、宗教って宗派があって、みんなで拝むというのは難しいでしょ。でもお地蔵さんなら、みんなで拝めるし、誰の前でも拝めるんです」。なるほど。
「もう一つは、絆です。お地蔵さんはコミュニティの絆の中心になります」。たしかに。
私が育った京都の下町でも、町内のお地蔵盆は子ども心に待ちきれない楽しみであった。老若男女車座に座って大きなお数珠をまわし、お下がりのお菓子をその時だけは神妙に頂いたものである。
小向さんは、その二つの思いから、縁あって知り合った長野のご住職と協力、すべての仮設に長野から運んだお地蔵さんを立てた。
そして、8月29日、さわやか福祉財団が主催した復興支援フォーラムでこのいきさつを語り、驚く大槌町長碇川豊さんにみんなの前で訴えた。
「こうしてできた仮設の絆を、復興の町にしっかりつないで下さい。お地蔵さんも一緒に」 |
(京都新聞「暖流」2012年9月9日掲載)
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