政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会

更新日:2012年11月21日

原発を海辺の地下に?
 あえて本紙に書くが、原発推進派の論拠がわからない。
 脱原発派は、経済生活より生命が大切だというのだから、わかりやすい。生活密着度の高い女性の支援を多く集めるゆえんである。
 そういう感覚は、生物の基本的本能だから、日本経済が大変になるとか、電気代の負担が何倍になるとか説明しても、説得できない。ましてや脱原発で経済生活がどんな事態になるかの説明が明快でないから、議論は決着不可能な迷路に入った趣きである。
 生命の安心最優先派でも安心するような原発、つまり、大地震や大津波だけでなく、原発へのテロや爆撃でも安心できる原発はできないものであろうか。そう考えていて、ひらめいたことがある。
 かつて私は、素人考えで本欄に、原発が爆破されたら原子爆弾と同様の被害を受けるから、原発を持っていることが核の(受動的)抑止力になる旨のことを書いて、玄人からいろいろとご指摘を受けた。それを覚悟で書くのだが、私のアイデアは、海か大河(滝があればなおよい)の傍に地下を掘り、そこに原子力発電所を設置するというものである。一たん大事が起きれば直ちに境界が破壊され、大量の海水か河水が一挙に流入して冷却機能を果たす。以後発電所はまるごと水に浸されたまま。
 福島の原発事故については官民いくつかの調査報告書が出たが、私は大前研一さんの分析がもっともストレートだと思っている。大前さんは、放射性物質飛散の直接的な原因は冷却機能がすべて失われたことにあるのだから、最優先にすべき対策は、事故によって機能を失わない冷却装置を考えることだと言っておられる。きわめてわかりやすい、したがって正しい指摘であると思う。
 この場合冷却とは放射性物質を水に浸すことである。そうとすると、ヘリコプターや放水車で水をぶっかけるより、水の低きに流れる性質を利用する方がずっと効率的、確実で、かつ安価である。そういう発想から、先に述べた海水・河水近傍地下施設説(?)が浮かんだ。
 「バカバカしい。そんなことはとっくに検討ずみだ。しかし、これこれの理由でできっこないよ。素人が今ごろ何を言っているんだ」という専門家の声が聞こえる。しかし、私は信じない。なにしろ安全神話に依存して、ずさんかつ無責任なままに対策を怠ってきた体質を、いまだに恥じているように思えない専門家が多いからである。
 「全電源が失われたのにどうして海水や河水との境界を破壊するのだ」という声も聞こえる。私はその声も信じない。専門家というものは、素人がこれまでにないことを提案すると、本能的に「そんなことはできない」という習慣を持つ生物だからである。しかし、上司が「それでもやれ」と命じると、不思議なことに、ほとんどのことはやってくる生物でもある。企業が生み出した画期的な発明品の多くは、そのようにして生まれている。スティーブ・ジョブズ氏が部下に命じた新発明に比べれば、海水や河水の導入くらいは大して智恵はいらないのではなかろうか。なぜなら、水は低きに流れる力を持っているからである。
 日本の原発をこれから地下に移すのは経費の面で大変かもしれない。そこは、お得意のコスト計算でやってくれればよい。
 問題は、これからベトナム等に輸出しようという原発である。もし日本で脱原発対策をとるなら、これは背信のにおいがするのを否めない。発展途上にある国は、貧困が生命を奪うことを知っているから、経済発展を最優先するかもしれない。それにしても、それこそ絶対安全なものを輸出する責任があるだろう。その時は、海水・河水近傍地下施設を真剣に考えてもらえないだろうか。

(電気新聞「ウエーブ」 2012年11月15日掲載)

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2012年10月 4日 日本の経済発展
2012年9月20日 社会保障 積み残された課題
2012年9月13日 お地蔵さんの絆
2012年 8月 8日 増税と政府とマスコミ
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