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定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2008年6月11日

後期高齢者医療制度への対応

後期高齢者医療制度に対する高齢者の批判が強い。どう対応すればよいか。

● 後期高齢者医療制度はなぜできたか

  現役世代の厳しい負担増を防ぐためである。
75歳以上の高齢者の医療保険制度を、一般の健康保険制度から切り離す後期高齢者医療制度が成立したのは、2006年6月である。
  それまで、高齢者(65歳以上)は、被用者保険か国民健康保険に加入していたが、退職者は被用者保険から国民健康保険に移るため、高齢者の8割以上が国民健康保険に加入する状態になっていた。高齢者の医療費は高いので(1人当たり年間医療費は、64歳以下は約16万円に対し高齢者は約65万円)、国民健康保険は財政的に立ち行かなくなる。そのため、83年に調整制度ができ、被用者保険にも国民健康保険にも同じ割合で高齢者が加入しているという仮定に立って負担額を計算し、実際額との差額を、被用者保険側から国民健康保険側に拠出する仕組みをつくった。 
  その額は、たとえば被用者保険のうち大企業の現役の入っている健保組合でみると、保険料収入の10数%であったが、2000年には、約40%に上った。現役世代は、納めた保険料の6割しか使えない状況になっていたのである。 
  これに対する現役(被用者)側の不満が高まり、財政が破綻して解散する健保組合が増え始めた。 
  そこで、医療費割合の高い75歳以上の高齢者(1人当たり年間約82万円)を、一般の健康保険制度(国民健康保険と被用者保険)から引き上げて独立の保険制度をつくることとし、ここに税金を費用の5割分投入し、現役世代からの支援(拠出金)を4割限度に止めることとした。 
  そして、後期高齢者も、1割分を保険料として負担することとされた。 

● 後期高齢者医療制度は合理的か

  国の保険は、国民みんなで、病気になった時の費用を助け合おうというものであるから、病気になる率が高い高齢者層の医療費を、現役層がある程度負担する結果になるのは、やむを得ないことである。誰もが高齢者になって発病する可能性があるのだから、現役世代には理解してもらうほかない。今回の改革で、現役世代の個々人に拠出割合が通知されるようになったが、これまでのところ強い反対運動が起きていないのは、幸いであった。
  強い不満の声を表明したのは、後期高齢者の方である。
  しかし、後期高齢者にも資産や収入のある人たちは少なくないのであるから、後期高齢者が全体として使う医療費について、その1割程度を全員で負担するのは、自助の精神からして当然であろう。現役世代も、多くは、厳しい家計の中から保険料を出しているのである。世代間の共助に全面的に依存するのは、尊厳ある生き方とはいえないであろう。

● 何が問題か

  問題は、後期高齢者層全体で負担する1割分の保険料を、どう分担するかである。
  保険だから均等負担というのは、働いて収入があることが前提とされている現役世代について当てはまることであって、働く能力が衰えていく後期高齢者については、これは当てはまらない。
  保有資産についても格差が現役世代よりはるかに大きいのである。したがって、後期高齢者については、負担能力に応じて分担することを原則にすべきである。
  この点に関し、厚生労働省サイドは、「負担は、おおむね現在の負担より重くならないであろう」という趣旨の説明をしていた。国民健康保険に加入していた後期高齢者も、負担できる人は保険料を納めていたのである。
  しかし、蓋を開けてみると、それより多い額を、年金から天引きされていた人が、かなり出た。一斉に不満が出たのは、そういう人たちからである。
  問題は、だから、後期高齢者医療制度にあるのではなく、その中の高齢者負担分について、能力に応じた、合理的な負担になっていないことにある。しかも、厚労省は、個別の負担について把握していないのである。

● どう対応するか

  まず、新制度も年金天引きのことも知らなかった人々が多いと思われる。こうした人々には、医療費負担の仕組みとその意義をじっくり説明して、自助と共助の精神から理解してもらう努力が必要である。分担の仕組みが政治のせいで決まるのが遅かったため、介護保険の時とくらべて、市町村の説明がきわめて不十分であった。将来、高齢者の数はうなぎ上りに増え、それにつれさらなる負担が求められることになる。その時にそなえ、国民にぢかに説明し、理解を求めるやり方を確立しておく必要があろう。
  しかし、ことは説明だけでは終わらない。負担額自体が人間的生活を難しくするほど過重な人々については、個別の負担のあり方を改める必要がある。
  国民健康保険における高齢者の保険料については、保険者である市町村によって独自の減免等の措置がとられていた。それが今回は認められなかったことが、負担の合理性に疑問を抱かせる一因になっている。世帯単位の負担を個人単位に改めたことも、暫定措置が終了すれば、問題を起こすであろう。
  国は、応能負担重視の視点から、保険料負担の基準について、介護保険における高齢者の負担のあり方と合わせて検討し、高齢者の納得できるものになるよう、改めるべきである(注)。公的保険には、弱者救済の目的があることを忘れてはならない。市町村は、広域連合と協力し、住民が人間的な生活を営む限界を越えないよう、きめ細やかな減免措置を考案すべきである。たとえば、ボランティア活動によって保険料を納付できる仕組みをつくってもよい。
  私たちの要求すべきことは、国と広域連合、市町村がそういう対応をすることであろう。
(注)本稿執筆後、厚労省は、低所得者層のうちの低い層について、均等割7割負担減を9割負担減にする案を提示した。応急措置としては評価できるが、個人単位とするか否かの基本的検討を含め、国民的議論が必要である。

● 後期高齢者医療制度の活用

  私は、この制度が発足した後に設けられた、厚労省の「高齢者医療の在り方に関する特別部会」(06年10月から07年10月まで)の委員として、制度の理念を検討した。そこで主張したのは、高齢者の医療は、疾病の治療の視点だけでなく、高齢者の尊厳ある生活を実現するという総合的視点から、福祉やボランティア、家族とも連携して、適切に提供されるべきであること、そして、高齢者の生き方は多様であることから、その意向をよく把握したうえ、それに合ったネットワークを組んで支えることなどであった。
  これらの主張は、報告書(http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/10/s1010-7.html )に生かされているので、地域で医師会などにネットワークを働きかける時に活用してほしいと思っている。

(『さぁ、言おう』2008年6月号)

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