更新日:2010年8月11日
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24時間365日サービスの実現
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人は、治療などで止むを得ず自宅を離れる時以外は、わが家で気ままに暮したいと望んでいる。それが「尊厳ある暮し」をするための絶対的条件である。アンケートで施設入居や入院を望むと答えるのは、自宅では必要なサポートが得られず止むを得ない場合か、サポートをする家族に遠慮してという場合が多い。
講演の機会に手を挙げてもらうと、ほぼ全員が自宅で人生を全うしたいと望んでいるが、「現実にそうできると思いますか」と問うと、ほとんどの手が下りてしまう。このギャップをどう埋めるか。それが尊厳ある人生を実現する方策である。
要介護5で買い物も調理もできない一人暮らしの高齢者の生活を、地域で支えることができるか。
早い時期からこれをやっている人たちが居る。たとえば長岡で地域に小規模な施設やケアセンターなどを展開している小山剛さんのところでは、職員が近くの在宅の要介護者に365日3食の配達をし、入浴等は巡回車で施設やセンターに来てもらうことにより、重度要介護者の自宅暮しを可能にしている。
要するに、施設で提供するすべてのサービスを、在宅者にも届ければよいのである。
まず、医療が介護と連携して、必要なサービスを自宅に届ける必要がある。そのためには、巡回医療・看護の体制整備と、医療・介護の連携体制を整えなければならない。介護はもちろん、医療・看護側もその方向に動き始めている。
私自身は自治医科大の尾身茂さんが総合医の普及等を目指して研究・提言をする民間組織の「医療改革国民会議」に属していて、医療と介護の連携についての提言を担当している。秋には、提言がまとまる。
次に、介護サービスが夜間も含めてしっかり自宅に届く体制が整えられなければならない。その点現在の介護サービスは滞在型になっているため、夜間だけでなく、滞在していない多くの時間帯における排泄、体位転換等々のニーズを満たすことができない。これでは重度要介護者の一人暮しは無理なので、ニーズに応じて随時(夜間も)訪問する巡回型サービスに変えなければならない。
田中滋座長の地域包括ケア研究会報告書がその方向を打ち出しており、それを受けて、私が座長を務める「24時間地域巡回型訪問サービスのあり方検討会」で実施策を検討、今年度中に具体策をまとめたいと考えている。介護サービス体制の大転換を伴う力仕事であるが、去る6月18日に開かれた第1回会合には長妻大臣、山井政務官も出席してそれぞれ期待の気持ちを述べるなど、政治側も熱意を示しており、智恵を結集していきたい。
3つ目として、食事その他の生活サービスが自宅に届かなければ生きていけない。それにはまず地域の小規模多機能が基本的な役割を果たしてくれなければならない。また、生活サービスを提供する地域のNPOなどの連携体制が整えられなければならない。サービスの社会資源は地域によって異なるから、地域ごとに協議会などのネットワークを組む必要がある。そしてそこではケアマネジャーと地域包括支援センターがコーディネータ―として活動することが期待される。滞在型介護が巡回型介護・看護に替われば、巡回するヘルパーが事実上ケアマネジャーの役割を果たすであろうから、ケアマネジャーは、包括的サービスの組み合わせに力を注ぐことが期待される。
最後に、重要なのは、ふれあい、いきがいを実現するためのインフォーマルサービスである。ここは、ボランティアが大きな役割を果たさなければならない。人はどんな状態になっても、淋しくては生きづらく、自分を生かす場がなければ意欲を失っていく。介護の人々を含め、個別にそうした場や活動をつくり出す人々が、けっこう足繁く自宅を訪れてほしい。そうした活動者は、われわれ民間で育成していく。行政や地域包括支援センターには、背後からの支援が求められる。
そして、ケアマネジャーは、このような活動を、すべての個人に対するサービスの中に組み入れていく必要がある。「尊厳ある暮し」の実現には、そのことがもっとも重要である。
私は、2年前から東京都の「東京の地域ケアを推進する会議」座長を務めており、今年度中にまとめる報告書では、いきがいをしっかり組み入れたケアサービス体制の提言をする方向で、議論を進めている。
「尊厳ある暮し」に向けての流れを、みんなで推し進めたいと願っている。
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(『さぁ、言おう』2010年8月号)
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