更新日:2010年 7月9日
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高齢者福祉の進む道
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2003年、厚生労働省の中村秀一老健局長が設けた研究会が発表した『2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて〜』は、幅広い関係者から支持され、その後の介護保険制度等の改修・再構築の基礎となった。
その先をにらんで、制度を、変化進展していく時代のニーズに合わせてどのように改築していくかについて、このたび地域包括ケア研究会(その各部会の座長は田中滋、前田雅英各教授)は、『地域包括ケア研究会報告書』を発表した。
報告書は、今後15年の高齢者福祉の進む道を描き出しているが、その認識や提言は『2015年の高齢者介護』が創り出してきた方向と実情を踏まえ、さらに歩を進めるもので、市民のニーズにしっかりマッチしている。互助を共助と区別したり、実情調査に重点を置き過ぎていたり、若干違和感のあるところもあるが、市民としてほぼ全面的に共鳴、支持できるものとなっている。
その内容をひと言でいえば、地域包括ケアを進める方向で徹底していることである。「高齢者の尊厳」という言葉はあまり出てこないが、提言はその理念を踏まえ、在宅ケアを強力に進め、既存の施設も「ケアが組み合わされた集合住宅」にしていこうという。在宅ケア拡大のため、「24時間365日短時間巡回型訪問サービス」を中心にし、福祉と医療の連携などを密にする。それぞれの個人に必要なケアが包括的に届くよう、地域包括支援センターやケアマネジャーの役割を強化し、ボランティアなど地域の力ともネットワークを組む。ほかにも、介護予防の実質化、認知症対応の強化など良い提言があるが、私が気に入っているのは、高齢者の生きがいづくりである。これはもっと体系的な仕組みにしたい。
財源ひっ迫の状況を考え、軽い介護・支援や家事援助を保険給付の対象外とするという意見がかなりささやかれていたが、報告書は中立の立場を取った。サービスを削るか負担増を採るかは、国民の意思によるべきところ、それを選挙で問うには政治的に機が熟していないと見たのであろう。しかし、「金を出すか、労力を出すか、見捨てるか」の選択問題が消えるわけではない。われわれとしては、地域の実情に応じて労力を出し、安心と幸せに寄与していきたい。
[『厚生福祉』5月25日号巻頭に掲載]
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(『さぁ、言おう』2010年7月号)
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