「そういうご提言をうかがって、私は悲しい気持ちです」と、大槌町長の碇川さんは言った。6月5日、大槌町宿泊勉強会でまとめた「住民からの提言」を説明した時の最初の反応である。
5月29、30日にかけて雫石町鶯泊温泉で行った宿泊勉強会には、大槌町のオピニオンリーダーの住民たち54名が参加。合計5時間にわたり、6つの地域に分けてワークショップを行って、復興の町の姿を描いた。
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碇川町長は、「周回遅れのトップランナー」を目指している。前町長が津波にさらわれたため、大槌町は、半年間町長を欠いたままであった。そのため、復興作業は、周回遅れとなった。碇川町長は作業を急ぎ、復興基本計画は、他の被災自治体並みに、昨年12月、策定を終えている。
しかし、住民の意見を聞く作業が不十分だったため、地域によっては、相当数の住民が町の計画に反対しており、そのため、次の段階である移転計画(町づくり)に進むかが難しい状態になっている。
宿泊勉強会でも、その状態がそのまま出て、意見がまとめられない地域が出た。中心部に当たる町方地域と吉里吉里地域である。
そのことを町長に伝えた時、町長は辛そうな顔をした。そして、報告を終えた時、冒頭の言葉が出たのである。続けて町長は言った。「私は、そういう状態はわかっていますし、もっともっと住民の皆さんの意見を聞いてまとめたいのです。だけど、すべきことが多すぎて、十分にできないのが辛いのです。でも、皆さんが、しっかり聞いてまとめてくださったことに感謝しています」
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私たちが、居住ゾーンについて相当数の異論がある地域についても、第2段階では、町の計画に従って移転するという前提に立って、その居住ゾーンをどんな町にするかについて話し合ってもらった。
これまで提言をまとめた市や町と共通しているのは、高齢者が車なしでも暮らせるコンパクトな町、最後まで自宅で暮らせる地域包括ケアの町、子どもからお年寄りまで助け合って暮らす町、町の中心部などへの交通をオンデマンドバスなどで便利にしてほしいこと、避難路の確保などである。これらの理念が、地域ごとに具体的に示された。
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これまでの提言より進んだと思われる点が、3つほどあった。
1点目は、具体的な町づくりの進め方について、キャッチボール方式が提言されたことである。
宿泊勉強会では、地域ごとに施設や建物などを書き込んだ図面を作成したが、行政はこれを受けて決定したもの、別の計画を持っているものなどを図面化して住民に示す。これを基に住民側が案をさらに具体化していくというように、住民と行政がキャッチボールを早いペースで繰り返し、計画を固めていくというものである。
碇川町長は、「心掛けたい」との答えであった。何回ものキャッチボールは無理としても、計画の住民に対する公開と、住民の意見聴取に意を用いていただきたいと願っている。
2点目は、住民の安全や生活に直結する公共施設、防災公営集合住宅、及び道路は、優先して場所を決め、建築してほしいという要望である。「1日を1年を思ってほしい」という言葉があった。
3点目は、共生型複合住宅の要望が強かったことである。人口が少ない集落に従来型の福祉施設やこども園をつくるのは無理である。しかし、これらを全部合わせた施設ならこれが可能となり、そこを24時間巡回サービスの拠点とすることも可能となる。施設の経営者から出たこの考えが、たちまち多くの支持者を確保した。
日本中、人口減の集落は多く、そしてこれからますます増えていくのではなかろうか。
いいモデルができれば、と願っている。
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(特記)
大槌町への復興応援は、中村順子さん、中田寿子さんらさわやか近畿ブロックを中心とするインストラクターさん方のひとかたならぬ知恵とエネルギーによって展開された。それがひとつの節目で形になったのが今回の提言書である。その経緯や今後の戦略などは中村さんの報告文(次頁参照)をお読みください。 |
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