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定期連載 挑戦−幸福づくり
更新日:2013年7月10日

包括ケアへの復興を拒む厚い壁

 地域包括ケアのある町への復興支援は、今年が山場である。であるのに、最後の段階にきて、壁の前で足踏みする状態が続いている。
 国は、素早く仕組みを整えてくれた。地域包括ケアを復興の理念に揚げ、法令や予算を用意し、サポート拠点、福祉を組み入れた災害公営住宅、被災地向けの共生型福祉住宅などを、モデル図を示しながら、予算付きで提示した。
 県や志ある市町村は、復興の方針や目標に地域包括ケアを揚げた。
 私たちが働きかけた9つの市と町の住民は、「最後まで自宅で暮らせる町」を、熱烈に望み、その実現のために有志が運動している。
 地域の医師や福祉関係者にも、強力な推進者が現れている。
 2年かけて、今年のはじめには、そこまで到達した。一緒に復興応援活動をしてくれた全国のインストラクターたちの苦労は、一人一人が一冊の本を書けるほどである。
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 それなのに、なぜ、住宅が建つつち音が聞こえ出した今になって、壁が破れないのか。それは、どんな壁か。
 基本的には、誰も、零から地域包括ケアのある町を設計する能力を持っていないという壁がある。行政も、建築のプロも、都市計画のプロも、医療や福祉のプロも、持っていない。零から町を造るのは、第二次世界大戦に敗れた時以来のことであるが、戦後の町づくりは、よくて道路計画があった程度で、無秩序そのものであった。それ以来、医療や福祉は格段に進歩しているが、病院や福祉関係の施設、サービス拠点などは、出来上がっている町にこれらを個々の事業者が組み入れていく形で整備されてきたのであり、その整備計画を地域全体を総合的に見て立案するという作業をした人はいなかったのである。
 だから、被災地では、大学の都市計画の教授などが応援に入り、町の全体計画図を示しているところもあるが、地域包括ケアの視点が入っているものは見受けない。そして、各分野の専門家が集まって総合的に知恵を出すような審議会、委員会などもない。おそらく、理念は語られても、これを全体図として具体化できる人が見当たらないのであろう。
 そうなると、復興は、早期に住宅を望む住民の強いニーズに応えるため、土地を入手し建てられることになったところから、建築していくという形で進むほかない。それでは、福祉を組み入れた集合住宅など、望むべくもない。
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 その壁を乗り越えるために私たちは、地図やジオラマを前に置きながら、被災者や地域住宅で町の復興図を描き、行政に提案してきた。昨年度は、地域の医師や福祉事業者に入ってもらい、サービス提供者側から見ても実現可能な提言にしてきた。地域に住む人や地域の事業者がもっともよいプランを考えることができると考えたからである。
 そして、住民からの提言をキャッチボール方式で行政の計画に反映していくという方法によって、ハードにソフトを組み入れようと試みている。この方式は、国土交通省や復興庁などが、文書で、被災地自治体に推奨してくれているものである。
 ところが、この方式も頑固な壁に拒まれている。
 それは、行政の秘密保持の壁である。
 行政は、抽象的なアイデアについては、とりあえずの意見を述べることができるが、いざ共生型福祉施設をどこにどんな形でつくるかなどの具体的な計画となると、当事者との協議はもちろん、最後は地方議会への根回しまで骨の折れる繁雑な作業を経なければならない。その作業の段階で話が広がると「俺は聞いていない」といった類いの横槍が入るなどして、計画が頓挫する経験を重ねてきている。だから、具体案となると神経質に秘密を保持しようとする。これではキャッチボールは成り立たない。
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 この壁をどう破るか。
 現段階でいえば、自治体の町づくりチームの中に、もっぱら地域包括ケアの視点からハードの計画をチェックし、提言する責任者を置くのが有効だと考える。一方の副市長(副町長)がハードを統括する立場、他方にソフト担当の副市長が置かれている場合、ソフト担当副市長の補佐役として、福祉系統の特定の部長にもっぱら地域包括ケアの視点からハードのあり方を考える役割をになってもらう。
 具体的には、その部長は、市長(町長)の特命で、次の役割を果たすこととする。
1. すべてのハードの計画は、決定する前にその部長に説明し、その部長が、地域包括ケアの視点から了承しなければ、計画は決定できない。
2. その部長は、地域包括ケアを具体化するに際し、住民や関係事業者から不断に意見を聞き、その意見をまとめる責任を負う。
3. その部長は、住民や関係事業者の意見を聞くに当たっては、ハードの担当者が立案中の町づくり設計案を、未確定の検討案として住民や関係事業者に示し、これについて意見を聞くこととする(キャッチボール方式)。
4. その部長は、住民や関係事業者の意見を直ちにハードの担当者に示し、これがハードに生かされるように共に設計の作業をする。
 要するに、十分な知識を与えられた住民及び関係事業者からその意見をキャッチボール方式でしっかり聞いて、行政の町づくり計画に組み入れる責任者を置き、その責任者が住民等とのキャッチボールの窓口となるという体制をつくるということである。
 町づくりが具体化しはじめた現段階で、早急にそういう責任者を任命し、住民のためにおおいに働いてほしいと願っている。

(『さぁ、言おう』2013年7月号)

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 [日付は更新日]
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2013年 5月 8日 復興応援の地域通貨
2013年 4月10日 人口減少地の医療・福祉
2013年 3月13日 共に暮らし、楽しむ住まい
2013年 2月 8日 福島の復興と新政権
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