更新日:2008年10月14日 |
デカセギの未来
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「生きがいを持って、生きていきたい」。紺野堅一さんは、そう望む。一方で、彼は自分に問う。「私のアイデンティティーは何だろうか」。
あなたは、彼が何歳だと思いますか?
3年前、彼が主演した映画が撮影された時、92歳。
彼の動きを丁寧に追ってドキュメンタリー映画を撮ったのは、栗原奈名子監督。映画のタイトルは、『ブラジルから来たおじいちゃん』(京都シネマで公開予定)である。
彼は、戦前19歳の時、単身ブラジルに渡った。「自分で決めて来たのだから」と、続く苦労に耐えながら、結婚し、子育ても終えた。やっと生活も落ち着いたが、妻に先立たれた。
さて、どのように生きていくか。あなたならどうしますか?
彼は、日本を訪問して、ブラジルからデカセギに来ている日系ブラジル人たちを励ますことを生きがいに選んだ。
戦前自分が決めたデカセギの道が、今は逆流して、30万人を超える日系人がブラジルから日本に稼ぎに来ている。
「彼らは、差別で苦労していないだろうか」「彼らは、結局は日本に定着して、移民として暮らすのだろうか」「子どもたちは、日本の学校教育についていけるだろうか」
自分のたどった道と重ね合わせると、紺野さんはデカセギに来た日系ブラジル人たちの今と未来がわがことのように気になる。だから毎年単身日本に来て彼らを訪ね、子どもたちの通う日本の学校にも顔を出し、校長先生と懇談する。
紺野さんは、人の幸せを自分の生きがいとしているから、若々しい。
そのような活動の中で、彼は自分に問う。「自分はブラジル人なのか、日本人なのか」
たどりついた結論は、そのどちらでもないとしても、私は○○人だというものである。あなたは、○○の中にどんな漢字を入れますか。
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(京都新聞コラム「暖流」2008年9月14日掲載) |
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