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提言 生き方・その他
更新日:2010年6月2日
法然上人を仰ぐ
 悪人を救いたい。法然上人のお言葉には、その思いが満ちあふれている。そのためには、難しいことは言わない。ただひたすら念仏をとなえればよい。そうすれば、五逆(親殺しなどの大罪)の悪人でも救われる。1回だけでもよい、心から念仏をとなえなさい。
 法然上人は、そう説いてまわられた。「念仏の力でなければ、善人さえも往生しにくいのに、ましてや悪人ではなおさらのことである」(『念仏往生要義抄』)言いたいのは、往生が難しいということではなくて、念仏の力は大きいから、これを心を込めてとなえれば、どんな悪人でも救われるということである。
 私は、30年検事をしてきて、被疑者に対する時、「どんな悪人でも必ず救われる」と思っていた。若い時から、法然上人の言葉を知っていたわけではない。自分が立派な人間だと思っていたわけでもなく、今でも、煩悩の固まりのような人間だと思っている。そして、それを恥とは思っていない。
 そんな自分ではあるが、検事として、目の前に次から次へと現れる被疑者たちを、何とかまともに世の中で普通に生きていけるようにしたいと願っていた。検事としては有罪の人を起訴して有罪と証明すれば仕事は終わりというのが一般的な考え方であった。しかし、それでは何となくもの足りなくて、罪を犯したならそれをしっかり認め、自分の力で立ち直り、頑張って幸せを掴んでほしいと願って検事をやっていたのである。ただ、難しい説教はしなかった。そんなことをしても、心に響かない。それより、被疑者が、その心に恥じない生き方をしたいと念ずるようになるのを、手助けしたいと思ってあれこれ試みた。被疑者がそう念ずるには、ただひたすらに願いをかなえることに没頭してくれなければならない。そうしてくれさえすれば、救いの境地に達する。
 私はそう信じてきた。それが法然上人の言葉にかなうと思うようになったのは、最近である。
(浄土宗総本山知恩院発行「華頂」2010年5月号掲載)
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