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提言 生き方・その他

更新日:2011年3月24日

好きなように
 タケオ君も24歳になった。音楽の天才、そしてダウン症である。
 母の書子(ふみこ)さんが、彼の天才を引き出し、コンサートで多くの客を呼べるまでに育て上げた話は、前に本欄で書いた(09年2月22日付)。一言で言えば、書子さんは、タケオ君の好きなようにさせただけである。
 だけであると書いたが、これが難しい。早い話、読者の中に、子どもを好きなようにさせながら育てた親は、おられるだろうか。毎日が、あれをしてはいけない、これをせよの連続ではなかろうか。
 書子さんは、タケオ君にドレミを教えることも止めた。彼が順序立てた教育に興味を示さず、自由奔放にリズムとメロディーをつむいでいたからである。タケオ君は、小学6年生でセネガルの太鼓サバールに出会い、夢中になる。そして、21歳、夢がかなってセネガルに渡り、現地のドラマーたちと合奏し、踊りに加わる。
 どこまでも広がる空の青、海の青。そして、白い砂の浜辺に円陣を組んでサバールを叩くタケオ君とセネガルの若者たち。
 先輩の技術に習おうと、じっと見つめる眼の光。あっという間に習得し、即興のリズムに乗せて仲間たちとかけ合う絶妙さ。
 タケオ君は、苦もなく、国際的なサバール奏者ドゥドゥのお気に入りとなり、80代の彼に肩を抱かれて出かけたりする。ピアノ、木琴はもちろんのこと、はじめて出会った楽器でも難なくこなしてしまう彼の才能に、セネガルのミュージシャンたちは、たった一曲で魅せられてしまうのである。
 好きなことを好きにやらせてもらえたから、彼はここまで音楽の才能を伸ばした。そしてその才能があるからこそ、彼は、どんな外交官よりも、人と交流することができる。
 そのことを感動的に伝えてくれる映画「タケオ ダウン症ドラマーの物語(監督常田高志)が、3年かかってやっと完成した。

(京都新聞「暖流」2011年2月20日掲載)  

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