政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2006年8月29日

―地方自治に思う―
民意を反映する地方議会への進化か

  知事選挙では、かつての宮城県浅野知事に始まり、今回の滋賀県嘉田知事と、無党派市民層の支持を得た知事が、政党が支援する有力候補を破って当選する事態が起きている。
  地方議会選挙では、○○ネットワークといった名称の無党派市民層を基盤とする議員が、都市部でいくつかの議席を占めるようになっている。しかし、彼らが過半数を占めるという現象は起きていない。簡単に言ってしまえば、地方議会の方が民意の反映の仕方が足りないのである。
  これまで、政党の争い、政策の争いは国政レベルの話であって、地方レベルでは政争すべきでないという考え方が、結構強く信じられていた。だから、首長選挙では、与野党が共に同じ候補者を支持することも、珍しくはなかった。そうなると、地方議会は、共産党を除くオール与党体制になる。
  民意を反映するための議会がなぜそうなってしまうかというと、議会人ご承知の事柄を図式化していえば、首長に、民意が分かれるような重要な政策事項の決定権が委ねられていなかった(いない)という現実がある。住民の生活に係る重要事項は、法律または国の財政資金によって決定され、地方自治体が住民のために行う最も重要な仕事は国に対する陳情であるというのが、実態であった。陳情をするには、地方議会が一致団結している方が、はるかに有効である。
  もちろん首長が自らの権限に基づいて政策を打ち出すことは可能であるが、その政策について激しく利害が対立する気配があると、市民の立場で蛮勇を振るう例外的な首長を除いて、その政策を引っ込めてしまう。地方議会を構成する諸政党も、あえて火中の栗を拾わず、少数政党が頑張ろうとしても数の力で押しつぶされてしまうというのが、おおかたの実情であった。
  そこで、地方議会にかけられるのは、信号機の設置など、普通、政策論争の対象にはならないような事項がほとんどで、だから、全会一致の議決でことは済む。
  もちろん首長側でも、諸政党が一致していることは、楽で、有難いことである。だから、公共工事などの発注や、各種事業の実施、補助金・助成金の交付、許認可権の行使などに際し、首長側は周到に支持諸政党や議員の意向に目配りする。そういう分配に預かることは、政党が後援者と資金を確保する上で決定的な役割を果たすから、政党は首長側にすり寄ることになる。激しい対立を制して当選した首長が、二期、三期と当選を重ねるにつれ、オール与党体制を獲得していくのは、そのためである。さらにいえば、市民をバックに当選し、市民のための政治を行う首長が、二期目か三期目で落選するのは、そういう分配を心掛けなかったためである場合が多い。
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  ここまで、典型的な旧型首長と旧型地方議会を描いてきたが、これを脱却して、民主政治の機能を発揮する地方議会と地方政治を実現することが、今の日本改革の決め手となる重要事項と考える。
  日本は護送船団方式、日本株式会社方式で一丸となって経済成長を遂げる段階をかなり以前に卒業し、個々の国民が多様な価値観をそれぞれ実現すべく努力することにより、経済、文化、社会などさまざまな面で成長していく国に進化している。
  だから、官は民に権限を譲って調整役に退くと共に、自由競争に耐えられない人々に対するセーフティネットの維持の役割を担うべきこととなる。
  その大きな方向については、おおむねの国民に異論はないのであろうが、そういう体制へ移行していくスピードと、セーフティネットの張り方については、さまざまな意見がある。これを方向として分ければ、民の自助自立を強調して高速移行を主張し、セーフティネット(公助)も自助努力をつくしてなお生存確保が難しい人に絞る方向と、移行に伴う倒産、失業などの出血を最小限にするため、移行の速度を遅くして経過措置をしっかり設け、セーフティネットも広く張るという方向である。どちらの方向も、自助と公助の間に、ボランティアなどによる共助のネットを設けることの有効性は否定しないであろう。
  それぞれの地方が、どちらの方向をとって具体的な政策を決めるかは、地方のそれぞれの実情に基づいて住民が決めるべきである。複雑・高度化した国家における調整及びセーフティネットの構築は、きめ細かくなければ非効率かつ不適切なものとなる。
  その意味で、行政権限と財源を一体として地方に譲ることが不可欠である。
  それができてはじめて、地方議会と地方政治は、住民のため民主的に重要事項の方向と具体策を決めるものに進化するであろう。

(「地方議会人」2006年8月号掲載)

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