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定期連載 企業福祉情報
更新日:2006年7月29日
新しい働き方 連載―第2回
組織のあり方と上下関係

  最近の若者
  「最近の若者は、まったく」という年長者のぼやきは、実は、洋の東西を問わず、何千年も昔からあったようである。
「自分でモノを考えない。言われたとおりやるだけで、応用がきかない。言わなければ指示を待っているだけだ」などというぼやきをきくと、「そうだ、そうだ」と一瞬同感するが、「ちょっと待てよ」と内心の声が待ったをかける。「考えてみれば、それは何も若い者に限ったことじゃないぞ。40代の中堅職員にだって、50代の幹部職員にだって、自分でモノを考えない人はいっぱいいるんじゃないの?」と自らの周りを見まわせば、そのとおり、けっこういる。どうやら、自分でモノを考えるのが苦手な人間の方が、むしろ多数派のようにも思える。そういう人が多いからこそ、組織の一体性が保ちやすくなっているのだろう。とすると、ぼやく必要はないのかもしれない。
  「最近の若い者はハングリー精神がなくてさ、叱るとすぐ辞めるし、叱らなくても、仕事のやり方が自分に合わないなんてわけのわからないことを言って辞めちゃうんだから、どうしようもないな」というぼやきも、一般的である。
  そういう若者の中には、もともと無気力で、対応が難しい人もいるが、やる気も能力もまだ十分あって、ただ、自分が燃える仕事を求めてさまよっている人もいる。このタイプが、昔はあまり見かけなかったタイプである。自己実現タイプといえよう。
  これからの組織や人事管理のポイントは、この自己実現タイプの人間の能力をいかに生かすかということになるであろう。彼らの意欲が組織で生かされれば、彼らは組織と仕事をリードする中核的な人材に育ち、活躍するからである。

  分社化
  自己実現タイプの人間は、組織の歯車になるのを嫌う。強いて歯車に押し込めば、辞めるか無気力になる。
  そういう人間を生かすには、大きな組織は向かない。ひところ流行となった分社化は、そういう人間を生かそうというのが一つの大きな動機であった。
  一般論として、組織が小さいほど、個々の構成員の個性は生かされやすい。しかし、それは絶対的な法則ではなく、組織の長が独断専行のワンマンタイプである場合は、その組織が小さいほど、部下の個性が殺される率は高まる。
  だから、分社化は、職員の個性を生かすという視点からは、決して万全な制度ではない。

  ピラミッド型からプロジェクト型、ネットワーク型へ
  自己実現タイプの職員や、その他の職員のそれぞれの個性を生かすのにより適した組織形態は、プロジェクト型(プロジェクトに応じてその都度、そのプロジェクトを達成するために作られる組織。ピラミッド型の場合もネットワーク型の場合もある)、あるいはネットワーク型(構成員が横並びの関係に立つ組織)である。
  本来、会社組織や行政組織は、当然にピラミッド型であると考えられてきた。行政組織法がそう定めているし(委員会型組織は、例外的である)、会社組織法も、ピラミッド型組織を定め、労働関係法なども、その前提でいろいろなルールを定めている。かつては、そのピラミッド型組織の少しでも上へと昇ることが、ほとんどの会社員たちの切実な欲望であった。上命の立場を夢見て、下服に耐えたのである。
  ピラミッド型組織は、疑いもなく効率がよい。ただし、それは上命が正しい場合である。誤った上命の下では、ピラミッド型組織は早いスピードで崩壊に向かう。また、ピラミッド型組織は、事態に対応する柔軟性に欠け、硬直しやすい。そして、下位にいる大多数の職員の個性(問題発見能力や企画力など)が削ぎ落とされ、平準化される宿命を負う。
  これに対し、プロジェクト型組織は、効率的であるうえ、ピラミッド型組織の持つ欠点を持たない。ただ、その組織編成は煩雑であるうえ、管理部門、製造部門、継続性が重要となる営業部門など、プロジェクト型組織になじみにくい部門も多い。
  一方、ネットワーク型組織は、効率性は落ちる。しかし、職員の個性を柔軟に生かす点でもっとも優れており、ピラミッド型組織の持つその他の欠点も、持たない。そして、プロジェクト型組織より適応範囲が広い。

さわやか福祉財団の例
  発足以来、私が理事長を務めるさわやか福祉財団(1995年法人成り)は、NPO的組織だからこそやりやすいこともあって、プロジェクト型兼ネットワーク型の組織としている。
  固定しているポストは、理事長、事務局長と渉外代表だけであって、この三名以外は、何らかのプロジェクトに所属する。そのプロジェクトは、毎年、リーダーを志す者が、プロジェクトの内容、予算及び人員を掲げて、全体会議(50名余の職員全体で構成)に申し出る。毎年20以上の申し出がある。そのプロジェクトが、財団の理念(「新しいふれあい社会の創造」)をはみ出さないことが確認されると、あとは優先順位の問題になり、場合によっては予算や人員が総額に照らして削られたうえ、承認される。あるプロジェクトのリーダーとなりながら、関連するプロジェクトではアシスタントとなっている場合も、少なくない。継続しているプロジェクトでは、同じ人が続けてリーダーとなる例が多いが、新しいプロジェクトが次々に誕生するから、組織も職員の所属も流動的である。
  リーダーは、自分で構想を立てたプロジェクトを自分に合う流儀で進めるから、自己実現タイプの人々は、存分に活躍するし、アシスタントにはその役柄にふさわしい職員をリーダーが選んでいるから、職員それぞれの個性が生かされる。
  そして、事業の運営はネットワーク型で行われ、各自の意見が対等に生かされる。リーダーは、決定、命令する者でなく、調整役である。したがって、決定に長い議論が行われることもあるが、理念を同じくする者であるから、仲間割れはなく、しばらくするとそれぞれの力量と特性が共通して認識され、ほとんどの意思決定や役割分担がスムーズに行われるようになる。
  プロジェクト型もネットワーク型も、人材の登用は自然に能力主義によることになるから、わが財団の事務局長は下から四番目に若い女性であるし、それぞれのプロジェクトでもリーダーがアシスタントの何人かより若いというのはむしろ普通の状態である。
  これを直ちに会社組織や行政組織にあてはめるのには抵抗があろうが、その方向に向けて組織を柔軟に運用することは決して不可能ではないし、そういう運用をする企業も少しずつ出てきている。調査・研究部門や通常の営業部門などは、なじみやすいであろう。

申し出制の人事
  自己実現タイプの職員に意欲を持たせ、また、それぞれの職員の個性を生かすには、従来型の、上から人事を申し渡す方式よりも、本人の希望をじっくり聞き、それに対し、別の選択肢があればそれを説明したうえで本人が最終希望を固め、可能な限り本人の希望に沿う人事を実現するという、申し出制の人事方式が適している。これには、評価のあり方が密接に関連するが、評価も上からの一方的評価でなく、本人の自己評価をベースとして、多角的な視点からの評価を加え、本人に透明な形で行うことが望ましい。本人が自己の適性を客観的に判断することが、仕事で自己実現するためにも、仕事に自己の個性を生かすためにも、必要だからである。
  自分を冷静に見ることは大変難しいことであるし、職員は、組織の中のさまざまな職場について、自分が経験したところ以外は、実態を知らないのが普通である。また、本人が希望していない職場であっても、本人の視野を広げ、あるいはその欠点を矯正するためには経験させておいた方がよいものもある。あくまで本人の成長という視点に立って行うアドバイスが、有益な場合が多い。
  そして、そういうアドバイスを行えるのは、遠い管理部門にいる人事担当者でなく、本人と共に仕事をしている上司、同僚、部下である。職場の全員が、周辺にいる仲間たちについて、やりがいを感じつついきいきと仕事ができるような職場はどこかということを意識して観察し、その意見がそれぞれの人事配置に生かされるような、柔軟な仕組みをつくることが望ましい。結構エネルギーの要る人事作業になるが、人事には全員が関心を持っている。それぞれの日々の幸、不幸に直結するからである。その関心を、本人にとっても組織にとっても大きなプラスになるよう生かさない手はない。秘密保持を旨とする人事作業を、開かれたネットワーク方式の作業にかえれば、人事担当者を増員しなくても、ここに述べたような人事を行うことは十分可能であろう。
  人事について本人の希望を聞くことは一般的に行われているが、その意欲や適性をどう生かすかという視点から徹底的に検討する仕組みをつくっている例は、多くないように見受ける。そのような人事が行われるようになれば、七・五・三現象(中卒の7割、高卒の5割、大卒の3割が就職後3年以内に早期退職する)は、かなり防げるし、職場も活性化するであろう。

多様な昇進ルート
  ピラミッド型の会社の昇進ルートは、頂点の会長、社長を目指すルートで、それには管理部門である期間経験を積むことが不可欠のように考えられている。そこで、そのルートに乗る職員が勝者で、乗れない職員が落伍者のように見られる社風が出来上がる。これでは、現場の志気が上がらない。
  昇進ルートとしては、社長を目指すルートがあるのは当然として、それ以外にも、現場の熟練者を目指すルート、調査・研究部門の第一人者を目指すルートなど、組織に応じて多様なルートがあってよい。そして、それぞれのルートで輝く人たちには、社長に匹敵する栄光と待遇が与えられるべきである。組織における発言権も、その分野に関しては社長以上に与えられてよい。自己実現タイプの人間には、管理業務を煩わしく思い、ひたすら特別な技能や知識を発揮することに情熱を燃やす人も少なくない。実現したいと思う「自己」は、当然のことながら、人間の数だけ多種多様なのである。それらがすべて生かされることが理想といえよう。
  さらにいえば、昇進ルートによって処遇されるか否かにかかわらず、仕事に自己の能力を傾注し、その能力が生かされることを喜び、生きがいとしている人を、その職務内容のいかんを問わず、組織全体として重んじ、尊敬する社風をつくりたいものである。仕事に自己を生かす喜びは、その成果を人から認められることにより、深く、確かなものになるからである。

職場の業務の運営
  職場の業務の運営については、ピラミッド型の組織にあっても、同じ職場に属するすべての職員が、自由に意見が言える雰囲気にするよう、特に管理者は留意すべきである。業務遂行の体制や方法などについて、全員が自由に改善意見を述べるフラットな会議を設定してもよい。わがさわやか福祉財団の場合は、月に1回、庶務担当を含む全員が参加する会議を開いているが、毎回、建設的な意見が続出して、事業の進め方や内部体制の改善に大いに役立っている。
 自己実現タイプの職員はもちろんのこと、新入の職員であっても、はっとするような着眼点からの意見を言ってくれることも少なくない。そして、その意見を入れると、その職員の仕事に取り組む態度が一変することもある。「給料をもらっているからやる、他人のための仕事」が、「自分で考えてやる、自分のための仕事」という意識に変わるからであろう

(NISSAY 「企業福祉情報」2005−X掲載)
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2006年7月29日 新しい働き方 連載―第1回  新しい働き方
2006年7月29日 新しい働き方 連載―第2回  組織のあり方と上下関係
2006年7月29日 新しい働き方 連載―第3回  働き方を選べる社会の重要性
2006年7月29日 新しい働き方 連載―第4回  働き方を選べる社会の実現策
2006年7月29日 新しい働き方 連載―第5回  労働とボランティア
2006年7月29日 新しい働き方 連載―第6回  労働構造の改革
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