更新日:2009年1月15日 |
ヒト中心の経済運営
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不安の魔力はおそろしい。先行きが見えないとなると、たちまち経済は縮小する。
道を拓くための提言を四つ行いたい。
一つは、モノの経済からヒトの経済へのシフトである。
かねてから主張しているが、人類が進歩すれば、ヒトに対する直接のサービスへのニーズが高まる。教育、介護、医療から、各種カウンセリング、情報提供など、さらには、理容、美容、マッサージに至るまで、人々は、自分への直接投資を広げる。
ヒトに直接サービスする事業はまだまだ未開拓であるが、その需要は国内限定で、地方でも強い。生産性は低いが、環境に負荷が少なく、ヒトの幸せを直接生み出す。21世紀型産業として、社会保障の基礎の上に、大きく、しかし地道に発展を図るべきである。
二つは、モノの経済について、対米依存型からアジア一体発展型へのシフトである。
アジアには、日本の戦後の経済成長期のようなレベルの国も少なくなく、そこでは、人間的な文化生活を営むのに必要なモノが、まだまだ不足している。日本のモノ関係産業は、まずアジアの文化生活レベルを中流程度にまで引き上げるのにその力を発揮してほしい。そのために、アジアの諸国と対等なウィンウィンの関係を深めるべく、政治、外交も、民間と協力して道を拓いていくべきである。いずれはEUのように、通貨も共有する連合体を構成し、戦争の可能性を零にしたい。
三つは、未来につながる公共投資である。
その場しのぎのバラマキはもちろんのこと、旧来型の道路工事などの公共投資は、未来にツケを残す。まずは、子どもや若者に対する投資であろう。子どもや若者が、自分の工夫と活力でいきいきと人生に挑戦できる人間に成長していくよう、社会全体で取り組みたい。そのため、小学生のころから何カ月か、あるいは何年か、地方に出したり、海外に留学させたりするくらいの投資をしてほしい。
モノに投資するなら、オバマ次期米大統領が言うように、グリーン・ニューディールであろう。小学校や中学校の校舎で太陽光発電の普及に取り組んでいるNPOがある。太陽エネルギーの活用は、広く市民の参加が必要とされるから、政財民の協力体制を構築すべきでなかろうか。さらには、IT技術を駆使したSOHO(自宅オフィス)を地方に広く設ける研究と実験に大きな投資をしてほしい。いきがい農業の振興も、重要な課題であろう。
四つには、同一労働同一賃金の確立である。
経済運営において官の非効率を排除し、民の競争と創意工夫を求めることは適切であり、今後も必要であるが、資本に労働を支配させ、労働力をモノと同じ原理で扱うことは、不適切である。労働力はヒトであり、資本はヒトのためにあるものだからである。
かつて共産主義は、働くヒトの復権のため、資本を廃止しようとして失敗した。資本は、ヒトの自由を基本的要素とする制度であり、自由は平等に勝るから、平等を絶対の価値とした共産主義は、自壊したのである。
ただ、資本の自由は、利己的自由である。だから、労働力にも容赦なく、不当な格差をもたらす。共産主義のように資本を排するのでなく、資本を生かしつつ、その利己的活動に利他の視点からタガをはめるのがこれからなすべき作業であろう。そのはじめになすべきが、労働力の復権である。復権の原理は同一労働同一賃金という、資本からみても当然の原理である。そして賃金のレベルは、労働の生産に対する寄与度による。資本の寄与度と労働の寄与度を客観的に評価する尺度が、早急に研究開発されるべきであろう。
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(電気新聞「ウェーブ」2009年1月13日掲載) |
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