政治・経済・社会
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提言 政治・経済・社会
更新日:2009年3月11日

高齢者こそ裁判員を

  5月から実施される裁判員制度では、70歳以上の人は、くじで選ばれて通知が来ても、辞退することができる。福祉サービスの利用者で、迷っている人もいるかと思われる。相談を受けたら、なるべく応じるよう勧めてあげてほしいと思う(相談に応じることに、何の問題もない)。
  もちろん、身体の具合が悪くて裁判所へ行けない方や長時間座っていられない方、認知症などで聞いたことをすぐ忘れる方などは、無理である。しかし、70歳以上とはいえ、心身ともにすこやかな方が多数派であり、むしろ青年や中年の方よりも冷静に、広い視野から落ち着いた判断をされる方は、たくさん居(お)られる。しかも、多くの方々が、時間や仕事などの制約から開放され、自由に時間を捻出することができる。全国でさまざまな高齢者に平素接している私(74歳)が、刑事事件を専門とする法律家の眼で見ると、高齢者層こそ、裁判員にもっともふさわしい人々が多く揃っている層だと実感するのである。
  確かに70の声を聞くと、ゴルフの飛距離はいっそう落ちるし、風呂場で見るご同輩のお尻はややお肉が垂れ下がり、足取りもシャキシャキとはいかない。しかし、テーブルに座って時局を論じ出すと「おぬし、本物の大人になったな」と内心舌を巻くような成熟ぶりである。40、50の時はすぐカッカと来て過激な論に走っていた熱血漢の癖がようやく取れ、おだやかに四方八方を見渡しながら誰もがうなずける主張をする。90を過ぎてなおラジオでトークしておられる秋山ちえ子さんから「堀田さん、人間いちばんしっかりするのは70代よ」とエールをもらったが、80、90と判断力が熟していくのは、秋山さんや日野原重明先生が示してくれている。
  今の社会、古い時代の感覚にとらわれて、高齢者を社会活動から締め出そうとするが、なんのなんの、ボランティアの分野ではまだまだ元気で、社会のお役に立ちたいという思いも強い。裁判は、これまで生きてきて身に付けた知恵を、被害者と被告人と社会のために、存分に活(い)かせる最高の社会貢献の場である。
  もし選ばれたら、人生仕上げの時期に、しっかりその知恵を世間に返してほしいと思う。

(時事通信社「厚生福祉」2009年3月3日掲載)

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